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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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06はなすべきこと

油断した。

あきらが油断した、その一瞬の隙をついて、秀也は現れた。
放課後の、部活の時間だった。


先輩方は早めに切り上げた美術室に、無言の秀也が現れた時、反射的に腰を浮かせた。
逃げようとしたのかもしれない。
けれどとっさのことに判断が遅れ、結局は教室の隅に背中を押しつけるだけに終わった。

いつもなら、この時間帯、ここを訪ねるのは水守だけだった。
美術室の扉をあける音がしても、ああ、また水守か、くらいの気分で振り返っただけだった。
完全に油断していた。
最近、接点もなく穏便に過ごしていただけに、そこに秀也の姿を見た時には、嘘ではなく呼吸が一瞬止まったのだ。

「しゅ・・・」

名前が最後まで出ない。
のどに絡まった言葉を、最後まで出せずに飲み込んだ。

秀也は、泣きそうな表情をしていた。

少しずつ、こちらに歩み寄る幼なじみ。
以前なら、どうしたの、と笑って尋ねられたのに、今はそうできないことに、自分で傷ついた。
もう、変わってしまったのだ。

それから、気が付いたら抱きしめられていた。
夕暮れのオレンジが、秀也の髪を染める。


「・・・あきら・・・っ」
絞り出すような声に、返事もできずに固まってしまった。
「あきら・・・!」
「・・・・。」
椅子から立ち上がり、おびえたように距離をとったあきら、そのあきらに、秀也は物も言わずに抱きついた。
そして力なく、ずるずると膝から折れていった。
あきらは混乱する。
自分の膝に取りすがっている、幼なじみ。
逃げなければ、と少しは思った。
先日の生々しい記憶は忘れられるものではなく、人けのないこの美術室も、あきらにとって安心できる場所ではない。
いつ、誰が通りかかるかわからない。
旧校舎とは言え、部活棟でもあるここを、現に水守だって挨拶がてら訪ねるのに。

「あきら・・・」

つぶやかれた名前は、懺悔のようにも聞こえた。
許さなくてもいい、そう言いきった、知らない男の顔をした幼なじみが、自分の膝に取りすがっている。
肩が震えている。
泣いているのだろうか。
恐怖と、怒りと、訳のわからない感情で混乱するあきらは、一つのことを思っていた。


寂しかった。

あんなことをされてもなお、秀也のいない日々は、寂しかった。
大切なものを失ったという想い。
怖かったというよりも、理解出来なかった苦しみ。
忘れよう、思い出さないよう、そう暗示をかけても果たせなかった一番強い思い。

秀也を、こんなわけのわからないままに、失いたくない。


「あきら、俺、お前が好きだ」
苦しそうにつぶやかれた言葉を、心のどこかで、ああ、と受け止める。
「好きだ・・・」
二度、つぶやかれた意味を考える。
逃げ場のない自分の膝に、しがみついている熱を思う。
自分も苦しかった。
でもきっと、秀也も苦しかったのだろう。

言いたいことはたくさんあった。
聞きたいこともたくさんあった。

でも。


「・・・・秀也、俺、さ」
耳に届かなくてもいい。
話したいことがあった。
「秀也のことは何でも分かってるって思ってたし、何でも話せるって思ってた」
幼なじみとして、ずっとずっと並んで歩いていた。
なのに、自分に分からない行動をする秀也を、驚くより、憤るよりもまず、寂しかったのではないか。
水守たちとはしゃぎながらも、心のどこかで秀也と比べていた。
いつも一緒にいた秀也が、隣にいない事の意味を、いつも意識していた。

「秀也のこと分かってたつもりになってた。・・・でも、ちがったんだね」
「・・・・。」
無言は肯定で、言葉に出さない秀也の優しさが救いだった。
「何でも話せるって、理解してるって、思ってたの、俺の驕りだったかな」
ぎゅ、と無言で腕に力が込められて、少しよろけそうになる。
膝に取りすがったままの幼なじみは、何も言わない。
だから、あきらが語るしかない。
「ずうっと考えてたんだ。秀也は、いつから、そんな風に俺を見てたんだろうって。なのにちっともわからない。俺はきっと、見てるようで見てなかったんだね」
「・・・・。」
先日の乱暴を、許せるわけではない。
あの熱を、屈辱を、悲しみと恐怖を忘れるなんてできない。
けれどもそれよりももっと大事なことは一つだけだった。
「・・・・ごめん。分かってあげてなくて」
許せない、と思ったのは本当だ。
でもそれ以上に、そんな風に思いつめているなんて微塵も思わなかった鈍感さが、どれほど秀也を傷つけていたのだろう。

自分は男だ。
秀也も男だ。

一つだけ、一応、確認したいことがある。

「・・・秀也は、俺を、本当にそういう意味で、・・・・・好きなの?」
残酷な問いだけれど、避けて通れないことは今の二人のこの状況が物語っている。
秀也は初めて伏せていた顔をあげる。
見おろす自分と、目があった。泣きそうな、何かを強く訴える目だ。
「・・・そう、なんだ」
考えないようにしつつも、果たせなかった可能性。
あんな行動に走らせた、その理由。
「何でも分かってるなんて、うそだね。ごめんね。秀也、一人で苦しかったんだね」
「・・・・。」
秀也は目を伏せる。
泣きそうで、泣けない。
そんな表情が、記憶の中の幼なじみと少しも変わらなくて、それがあきらの背中を押す。
「・・・・ごめん、どうしていいのか、俺もわかんないや」
でも。
「だから、一緒に考えよう?」
一人で苦しんでも、答えは出ない。
だって、二人のことなんだから。
「俺、秀也のそういう気持ちに、どう応えていいのかわからないけどさ、秀也が一人で苦しんでるなんて、嫌だ。それだけは本当だよ」
素直に、告げる。
誤魔化したり、なかったことにしたり、逃げ道はいくらでもあっただろう。
けれど、こんな風に辛そうな秀也を見て見ぬ振りなど、できるはずがなかった。
ずっとずっと、一緒だったのだから。
「一緒に、考えさせてくれる?」
そっと尋ねる。
膝を抱きしめる秀也の腕は力を増し、かすかな声が吐息のように耳をかすめる。
「・・・俺、あきらが好きだ。おかしくなるくらい、あきらが好きだ・・・」
「・・・・うん」
一つ。
「・・・・ありがと」
そう答えると、秀也の腕の力は一層まして、よろけたついでにその髪に手が触れた。
少しごわごわしていて、柔らかくはないけど、愛しい感じ。
「・・・今日、一緒に帰ろっか」
久しぶりに、と提案すると、無言で体を離した秀也の目元が赤らみ、照れているのだと分かった。

もう、あの日の恐怖はなかった。
くすぐったいような、おかしい気持ちになって、あきらはほほ笑んだ。

同性だということに、不思議と嫌悪感はなかった。
それよりも、相手が秀也だということが大事だった。
自分の大切な幼なじみは、男である、ということより、秀也である、ということの方が何万倍も重要で、その秀也が自分を恋愛感情で好いているということは、男に好かれているというよりも、秀也に好かれているのだと、そっちの方が自分にとって意味があった。

そういう意味で、秀也を好きだと思ったことはない。
どうしていいのか、本当は分からない。
けれど、好きだと震える声で言ってくれた彼と一緒に考えていくことは、不思議と嫌ではなかったのだ。


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