「あらあら」
夕食のため階下に降りた光輝をみた、母の第一声はそれだった。
泣きやんだ後も目が真っ赤で、少しだけ恥ずかしそうに改めて挨拶をした光輝は、年よりもはるかに幼く見える。それが木戸家の<お母さん>の何かをひどく刺激したらしい。
光輝が、涙声でいただきます、と手を合わせたのと同時に、母はにっこりと息子に確認した。
「明日、終業式よね」
「うん」
「じゃあ、泊まっていってもらいなさい」
「え」
なんで、と問うた息子にはもう目もくれず、おみおつけを珍しそうに一口含んでごっくん、と音をたてて飲み込んだお客様に、母は笑顔を向けた。
「いいわよね?」
おうちにはちゃんとお電話しておきなさい、と言い、にこにこと念を押すよその家のお母さんに、光輝はおずおずと、はにかむように笑顔を返す。
父は仕事で遅くなるという。
いつも母と二人で食事をとることが多いのだが、今日は珍しく箸が三膳ならべられた。
異分子は光輝なはずなのに、何だろうかこの疎外感は。
取り残された息子は、こっそりため息をつきながら動物性たんぱく質の少ない食事―木戸の体を気遣う母の想いが詰まったもの―をかみしめるのだ。
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