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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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『雨音がきこえる』 /01きけないこと

なんでも話しあえた。
幼なじみとしていつも身近にいた秀也の存在は、心の支えでもあると同時に、意識しなくてもそこにある空気のようだった、と、今なら分かる。
「あきら」
かけられた声に振り向くと、あいかわらず愛想のない顔があった。
今まさにその相手のことを考えていたこともあり、なんだか可笑しさがこみ上げた。
「?なんだ」
自分の微妙な表情を察してか、秀也がかすかに表情をゆがめる。
何も知らない他人が見たら、また怖いとか言い出すんだろうな。
目つきがもともと鋭いこともあり、秀也は時折、まわりから一歩引いて接せられることがあった。
こんなに分かりやすくて、優しくて、不器用で、ほほえましいのに。
でもそれは幼なじみの自分だからこそ知る一面なのだろう。
現に、あきら自身も周囲からはいろいろと誤解を受けている部分があった。
たとえば。


小金井秀也とは腐れ縁で、お互い家が隣だから仕方なく一緒にいる・・・とか。
あきらにはそんなつもりはないし、秀也だってそうだろう。
もともとあまり体が丈夫ではないあきらとは、背格好も大きくて、運動部で活躍する秀也とはあまり共通点がないように見えるらしい。
気が合うとは思えない。
何の気なしにクラスメイトに言われた時は、思わず秀也と顔を見合わせてしまった。
考えたこともない。
気が合うか、合わないかなんて。
だって、そんなことと関係なく、いつも隣にいて、これからも隣にいるのに。

「あきら、今日遅いか?」
声変わりを経て随分低くなった秀也の声に、未だにちょっと慣れない。
お互い高校生にもなったし、子供の時とは何もかもが違うのに、心のどこかで幼い子供のころのままなのかもしれない。
「ん、たぶん秀也の方が早いと思う」
「わかった。待ってる」
有無を言わさず返事が返ってきた。
すこし驚いて言葉を失う。
多めに瞬きをしたその視線をどう受け止めたのか、秀也が目をそらす。
「どうせ、帰る方向一緒だろ」
「・・・うん、そうだね」
なんといっても、家が隣同士なのだ。
家と家の壁がこすれるのじゃないかと心配なほど、密接して建てられた両家は、測量士さんいわく「ぎりぎりの例外」なのだそうだ。
薄い塀はノラ猫が通るのがやっとなほどで、二階にある互いの子供部屋は、窓を開けると互いの顔に手を伸ばせるほど距離が近い。
昔はその窓から互いの部屋を行き来し、親に見つかっては怒られたものだ。
「じゃあ、教室で待ってるから」
秀也のクラスは1-Eだ。
A組のあきらとはかなり離れたところにある。
「わかった」
そう言って手を振り、互いに部活へ向かった。
秀也はバスケ部の活動場所である体育館に。
そしてあきらは、美術部の拠点である美術室だ。

「木下ーっ!」
屈託のない声とともに部室の扉を開けたのは、泥んこにまみれたクラスメイトだった。
水守隼人。同じクラス。
サッカー部の彼の活躍ぶりは、美術室の窓からも見られた。
今日もド派手にスライディングしているなぁ・・・と、窓側に陣取った椅子から見ていたのだが、3階の窓から見るよりも、至近距離で見た彼の泥まみれぶりは想像のかるく5倍は越えていた。
上から見た限りじゃ、ここまでぐしゃぐしゃじゃなかったはずなのに。
居残っているのが自分だけであったことに感謝する。
もしここに部長や先輩たちがいたら、大騒ぎで水守を叩きだしていただろう。
「せめて顔、洗ったら?」
それしか言葉が出なかった。
「お、まじでか」
そう言いつつ、水守は大して気にかけた風でもなく、美術室の奥にあった水洗い場でバシャバシャとやり始める。
近くに置いてあった石膏像に水しぶきがかかるのも、お構いなしのようだ。
「あー・・・あんまりはねると、そこ水が」
「んー?なんか言った?」
ばしゃ、と頭からかぶった水をはね上げて、水守が無邪気に笑う。
本当に不思議な奴だ。
高校に入学してすぐ、一目こちらを見るなり「お前、男のくせにほっせーし白いし、飯食ってるのか?」と謎な話しかけ方をしてきた。
初対面であまりといえばあまりな言葉に、何も言えなくて見つめ返すと、にっかと子供のような笑い方をして「オレ、はやと!水守隼人な!」と、お構いなく自己紹介をした。
あまりにも突然過ぎて、思わず笑ってしまった自分に、屈託なく「今日からクラスメイトだかんな、よろしくな!」と手を差し出してきた。
その話を秀也にすると、いかにも嫌そうな顔で「あまり近づくなよ、そういうやつ」と忠告されてしまった。
秀也は礼儀に意外とうるさい方なので、馴れ馴れしさや乱暴なことを一切嫌う。
潔癖にも思えるそのほほえましい一面が、あきらは大好きだったが。
「なぁなぁ、部活終わった?メシ喰ってかねえ?」
次いで有名なファストフードのチェーン店の名前を挙げる。
あきらは笑って首を振った。
「ごめん、今日は約束があるから」
もちろん、教室で待っているだろう秀也だ。
「ふーん」
つまらなそうに口をとがらせた隼人のしぐさがほほえましすぎて、あきらは思わず目を和ませる。
その表情をどうとらえたのか、なんだよっとそっぽを向いたふりして、それでもあきらの手元の絵を覗き込む姿は、高校生には思えない。
「随分すすんだな!」
入部してから1ヶ月、少しずつ色を乗せている今の油絵は、この窓から見える風景を模したものだ。何度も何度も書き直し、ようやく筆が乗ってきたところだ。
それを、サッカー部帰りの水守が、まだかまだかと覗き込むようになってもう随分と経った。
本当に不思議だが、水守はよくあきらに絡んでくる。
「じゃあまた今度な!」
こだわりなく手を振って出て行く後ろ姿を、苦笑と共に見送り、あきらも後片付けを開始した。
もう今日は帰ろう。
これ以上秀也を待たせても悪いし。

道具を手入れし、片付け終わってみると、時計はかなりの時間を指していた。
バスケ部とはいえ、1年生である秀也は早めに部活を切り上げる。
レギュラーの先輩方の気が散るから、と帰されてしまうのだそうだ。
後片づけ等は、2年の準レギュラーが受け持つという、ちょっと変わった図式らしい。
だから、先輩後輩のタテ社会がそれほどでもないあきらの方が、部活の拘束時間は長い。
もっとも、美術部は各個人の進み具合によって時間もまちまちだ。

暗くなってしまった外の景色にあわてながら、秀也がいるはずの教室を目指す。
廊下には灯りが漏れており、ああ、よかった、まだいるんだ、と安堵したのもつかの間、覗き込んだ教室のど真ん中で、秀也は思い切り突っ伏して寝ている。
規則正しく上下する背中が、彼の熟睡ぶりを物語っている。
起こすのもかわいそうだし。
でも。
あきらのためらいをよそに、気持ち良さそうな寝息が聞こえる。
「んー・・・」
あ、起きたかな、と思ったのもぬかよろこびで、伏せていた顔を両腕の中で右にずらしただけだったようだ。
意外と長いまつげが、しっかりと閉じられた目を縁取る。
あどけない寝顔に、何故か安心する。
昔から変わらない、秀也は秀也のままだ。

そう思いつつ、あきらの胸にはどこか引っかかっていることがある。

ききたくても、きけなかった問い。


―――ねえ。

言葉に出せず、寝顔に問うた。


―――秀也・・・さ。

あの時なんで、キスなんか、したの?

寝てる俺に・・・・さ。






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