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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

No number 01

初夏の、日差しがきつい午後だった。


保健室のベッドに横たわる、すこし白すぎる寝顔。
髪はやわらかな茶。
日に透け、紅茶の色にうつるそれに縁どられ、彼は目をつむっている。
ここへ運んだのは自分だ。
授業中だということもあり、保健医のすがたは見えない。

そう、だからこの罪に、目撃者はいなかった。


ただ罪びとだけが、己の犯したことをわすれない。



あれから、3年が経っていた。



No number 君にはなせない物語







「あき」
声をかけると、その歩をとめ、呼んだ声を探すようにゆっくりと振り返る。
この瞬間が、何よりも好きだ。
その目が自分をとらえると、必ず、微笑むのだ。
名を呼んで、彼が微笑み、そのそばへ走るこの流れは、学生服を着ていたころと変わらない儀式だ。あきらの近くに行きたいと心が叫ぶので、身体がそれを後から追う。
その日も隼人は儀式をなぞる。喜びとともに。
「これから講義?」
隼人の手にある教科書を見ながら、あきらが柔らかい声で問うた。
「ん。そっちは?」
「今日の分は終わった。というか1コマ休講が出てね」
アキザワ先生が出勤しないって、学生課が大騒ぎしてたんだ、と、肩をゆらして笑っている。
どうやら教授の一人が、授業をわすれたのか連絡がつかないらしい。
彼とは学部が違うので、教授陣がかぶっていない。
へぇ、そうなんだ、と言いながら、並んで歩く。
「で、どうすんだ?帰る?」
「図書館でレポート書いて行こうと思って」
その答えに、心がぱっと喜ぶ。チャンスだ。少しでも彼と一緒にいられる。
「じゃあさ、一緒に帰んない?次のコマ終わったらオレも帰れるから」
「90分・・・んーーーー集中力持つかなぁ」
90分を一人で自主勉強、隼人だったらできない。飽きっぽいから。でも。
「あきなら、できる」
意味の分からない励ましに、あきらは2回まばたきし、次いで困ったように笑った。
「ありがとう・・・?」
語尾が疑問形で、隼人も笑みになる。
「じゃあ図書館に迎えに行くよ。帰り、軽くなにか食べていこうぜ」
今日はお互いバイトのない日だ。あきらのスケジュールは自然と把握している。
わかった、待ってる、そう言って手を振る姿に、隼人は喜びをかみしめる。
約束をしているわけではないから、校内でこうして偶然出会えて、幸運中の幸運だ。
今日は、いい日だ。
あきらに会えた日はいい日。
あきらのいない日は、悪い日。
してみると、高校のころは、ほぼ毎日がいい日だったという計算になる。
3年同じクラスだったからだ。神様もいい仕事をしてくれた。
でも大学には、あのころのようなクラス分け制度がない。
だからこうして、偶然をたよりにしないとその日はいい一日にならない。
そして偶然が味方した以上は、自分の手でもっといい日にしなければ。
あきらといると、世界が隼人に優しい。
ご褒美をもらっているような気分になる。
かといって、ケータイで呼び出したりするのは、隼人としては「邪道」なのだ。
そういう風に彼を縛り付けたいわけではない。
その近くに寄れる機会が、ほんの少しでもあるのなら、それでいい。
無理に捕まえたいわけではない。
あのままのあきらと会えれば、それでいいのだ。

ふと。

視線を感じる、ということは、大体が気のせいだったりする。
通学の電車の中で妙にこっち見てる人がいんなぁ、と思ってたら、それは電車内の中吊り広告を
見てるだけだったり。
だから、この時もそうかと思った。
もしくは、誰か知り合いがこちらを見つけたのか、その程度のつもりで何の気なしにそちらを振り返る。
予想に反し、あからさまにこちらを注視して歩みを止めている人物がいた。
背が大きく、遠目では顔があまりよくわからない。
信号で左右を確認する作業のように、きょろきょろと探ってみたが、どうも視線の主が見ているのは自分に間違いがないようだ。
声をかけようかと思う。誰だっけ?って。
でもその前に授業開始を知らせるチャイムが鳴り、どうしようか迷っているうちにその人影はいなくなっていた。

まあ、いいか。

授業のある校舎を目指し、そのことは一旦忘れることにした。


退屈な授業が終了し、開放感で胸がいっぱいだった。
早く、あきらに会いに行きたい。
何せ3日もあきらに会えていなかったのだ。
今日はバイトもないし、天気もいいし、なんだったらコンビニでテキトーに買って、駅近くの公園で日向ぼっこでもしようか。
あきらは、カラオケやファストフードでたむろすることをあまり好まない。
隼人はどっちだっていいけど、せっかくあきらと過ごすのだから、あきらのなじむ方を選びたかった。
あきらの待つ図書館は、渡り廊下を通じて体育館と対に位置していた。
図書館で見つけ、いたずら心を起こして、遠くから眺めてみる。
高校の時から、こうして窓際にいるあきらを見るのが好きだった。
窓から差す光がその横顔をかたどり、やさしい線を描くのがなんとも言えない。
それを見ただけで、自分だけの宝物を見つけた気持ちになる。
その姿を存分に楽しんだ後、声をかける。
自分に気づいたあきらがふわっと笑むのを、隼人は満たされた気分で見ていた。
あきらは不思議だ。
こんなにも、自分を喜ばせる。

図書館を連れ立って後にした二人は、なにやら体育館の方が騒がしいことに気づく。
図書館前の渡り廊下の先には体育館しかなく、大学と言えども運動部は活発なほうで、サークル活動の範囲を超えて本格的に試合などをしていることが多々あった。
この日もそうだったようで、見慣れない同一の黒ジャージを着た集団が、これまた同様のビニールバッグを手に、どやどやと出口からあふれ出している。
他校の生徒だろう。
何のスポーツかはわからないが、合同練習か、それとも試合に来たのか。
応援の生徒はいないので、おそらく前者だろう。
彼らはそのまま渡り廊下を通過し、図書館前を通り過ぎないと外に出られない。
あの騒がしい集団と混ざるのは邪魔くさい、と判断し、先に出ようとあきらを促す、つもりだった。
いつも穏やかなあきらの表情が、こわばっている。
黒いジャージの集団を凝視し、縫いとめられたようにその場から動こうとしない。
その視線を怪訝に思いながらたどる。
その先に、妙に背の高い男がいた。
あ、と記憶がよみがえる。

さっき、隼人を見つめていた男は、あのくらいの背丈ではなかったか。
そして、その人物は、よく見れば隼人も知っている者だった。
高校時代、何度か廊下ですれ違った。
クラスこそ違ったので、ほとんど口をきいた覚えはないが、名前はしっかり憶えている。
あきらの、おさななじみだと聞いた。
その名前は、確か。
「・・・しゅう」
かすれた声で、あきらがささやく。
となりに隼人がいることなどまるで忘れたかのように、一心にかの人物をとらえたままだ。
彼もまた、こちらを、否、あきらを見ている。
黒い集団が数名がやがやと通り過ぎ、その人物だけが、その場に残っている。
息を、忘れたかと思った。
なぜか二人の緊張が伝わるように、隼人も動けない。
「しゅうや」
あきらが再度、つぶやく。
そう。たしかその名前。
あれは。
「おーい、小金井、先かえるぞー」
黒い集団から誰かが彼に声をかける。
彼はその声にこたえず、というか聞こえていないのだろう、あきらをじっと見つめ続けている。
「・・・。」
やがてゆっくり、渡り廊下を踏みしめてこちらにやってくる。
あきらの身に緊張が走るのを、隼人は感じた。
隼人が大好きな、あきら特有ののんびりと穏やかな空気が、一気にかき乱れる。
彼はゆっくりと近寄り、会話するにはほんの少しだけ開きすぎている距離で立ち止まると、ため息のような声で呼ぶ。
「あきら」
まるで宝物を口にしたら、そう聞こえるような声音で。
あきらも、応じる。
「秀也」
この、空気はなんだ。
見つめあう二人に、きっと隼人は見えていない。
やがて視線だけで交わされた何かを経て、あきらが唇を開く。
それは、隼人がかつて聞いたこともないような、深い声だった。
「久しぶり」

隼人には、 あいたかった と言っているように聞こえた。

対する相手は、まるで言葉にならなかったそちらの言葉に反応したかのように、無言で、ただゆっくりとうなづきを返す。


小金井秀也、木下あきら、水守隼人。
3人が再会したこの時、高校時代に戻ったかのような錯覚を覚えたのは、隼人だけではなかっただろう。








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