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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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No number 04

学園祭は、夕暮れとともに終わりを告げた。


「ここにいたの」
笑いを含んだ優しい声を背で聞き、自然と、頬に笑いが染みる。
嬉しい。

あきらの声が、明るい。






この大学を選んだ理由の最たるものは「あきらが行くから」という、家族に言ったら本気でぶっ飛ばされるものだが、次いで挙げられるのは多種多様な学部と学科が本当に面白いと感じたからで、そのうちの一つに生活園芸科、というものがる。
農学部から枝分かれしたそこが手がける、校内のハーブ園という謎のエリアが、隼人のひそかなお気に入りだ。
素人目には雑草にしか見えない。
けれど、あきらはここが好きだと言って、ときどきハーブの種類と効能について説明してくれたりする。
隼人の好きなものは、あきらに通じている。
あきらの好きなものは、隼人も好きだ。
あきらを喜ばせるものを、隼人も喜ぶ。
「学園祭、終わったなー」
そう言って振りかえると、夕日に染まったあきらの茶色の髪が、風にふわふわ踊っていて、それが少し彼を幼く見せる。高校生のまま。出会ったあの頃のまま、やさしく笑っている。
「うん」
ハーブ園のわきにある木製のベンチに、当たり前のようにあきらが隣に座った。
風が、それだけで柔らかくなる。
「・・・試合見てきたよ」
あきらが、何でもないことのように話す。
「伝言、ありがとう」
その言葉に、隼人の笑みは濃くなった。
「いや。久々にゆっくりしゃべれたか?」
「ううん。試合を見ただけ。でも、秀也にはわかったみたい」
目が合って、こっち見て笑ってた。あきらはそう言った。
少しだけ意外で、そうか、とだけ答える。
「もう忘れてるかもしれないけど。前に隼人が俺に言ったんだけどさ。高校のころ、俺のこと見て、『人間にひどいことされたノラ猫みたい』って」

覚えている。

覚えているどころか、いまでもずっとそう思っている。
急な接近に、過度におどろく姿を見るたび、いつものどがつっかえるような錯覚を覚えた。
口に出して表現したのは、そのとき一回だけで、以来、思ってもそのことに触れないようにしてきた。
見て見ぬふりを、してきた。
「あれね、逆なんだ。ひどいことしたのは、俺の方」
明るい声での懺悔は、夕日が背中をぽかぽか温める中で聞くには、少しだけ冷たい温度に感じられた。
「・・・あきに、ヒドイことなんて、できるのか」
「ええ、何それ」
「あきって、ヒドイこととか悪いこと、できなそー。たぶんそれ、あきが思ってるほどひどくも悪くもなさそ。きっと、オレ的には日常チャメシなレベルなんじゃね」
軽くそう茶化すと、隣でふっと笑う気配。
「なんでかな、隼人って本当に俺に甘くない?」
甘やかしているつもりはない
本気の本気で、そう思っただけだ。
「そんなんじゃなくて・・・本当に一生許されない、ヒドイことしたんだよ」
「・・・。」
きっとそれは、許されないと思っているのはあきらだけだ。
相手が許さないのではなく、あきらが、あきらを許さないだけだろう。
詳細は知らずとも、隼人はそんな気がした。
「でも、隼人が伝言で伝えてくれた。もう、許してるって」
言葉をゆっくり脳内でかみしめる。
「あれって、そういう意味だったのか?」
「うん。そうなんだ」
あきらがこくん、とうなづく。
「ありがとう。隼人はなんとも思ってないかもしれないけれど、本当に本当に、俺は救われたんだよ」
「・・・。」


―――――あきらに、伝えてくれ

少しかすれた声で、彼は口を開いた。

―――――いつも遠くから、あきらのことを思ってる

最後に少しだけためらって、でも一層深みを乗せた声で言った。

―――――雨なんかの日は・・・特に


意味はさっぱりだが、そのままの言葉を、世間話のついでのように、あきらに伝えた。
とたん、あきらの顔が一瞬で別人のような色に染まったのが、忘れられない。
驚き。
とにかく、何かに衝撃を受けた表情。
次いで、あふれ出した涙の意味は、彼ら二人だけにしかわからないのだ。



「何があったか、聞かないんだね」
穏やかな声で、あきらが問う。
あきらが、話したいことなら、何時間でも何日でも聞く。
でも、彼はそれを望んでいない。
「んー。久々に懐かしい顔見たってだけだろ、お互い」
「・・・・。」
隣で、くすり、と、空気を笑みの形で吸い込む気配がした。
「・・・本当に、隼人ってすごいなぁ」

それ以上、彼は何も言わなかった。
隼人も何も聞かなかった。

何かがあったとしても、それはきっと隼人の触れない物語だ。
それを共有しても、当人でなければ意味がない。




高校の時に出会い、きっと、隼人は知ってしまった。
あきらの笑顔をみた瞬間、その唇に唇で触れてしまったあの時に。

――――きっと自分は、あきらに恋をしてしまうだろう


そんなこと、とっくに知っていた。
たとえ永遠に手に入らなくても、焦がれるこの気持ちを、きっと恋と呼ぶのだ。

――end*







想定では、1回きりの読み切りのつもりで書き始めたのですが。
丁寧に書こうとした結果、こんなことに。
「雨音が聞こえる」を書き終わったときには、この後あきらと秀也は大人になって再会し、やっと結ばれる、という想定で書いていました。
が。
そもそも、ここであの二人がヨリを戻すのなら、あの時あんな風にわかれなかったし、泣かなかったし、苦しんだ意味がない・・・と考えて、書いてるうちに話の方向を変えました。

隼人はあきらに恋をしたかもしれないし、しないかもしれない、という位置づけで、ただ保健室事件で変に伏線をはったので、それを回収しようとしたのですが、
結果、こんな感じに、なりました。
今はこれが、精いっぱい。
でもずっと心に引っかかってたので、予定とは違うけれど、書けて良かったです。

この世の誰かが、読んでくださいますように。




2018.2 胡蝶


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