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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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No number 03

「―――俺、あきにキスしたことがある」

そう切り出した瞬間、初めて彼と視線が合った。
そしてその表情を見て、聞きたかったことのすべてが分かった。


こいつは、あきに、恋をしている。










学園祭当日。
キャンパスはとってつけたような飾りで、それでも、それなりに見える。
運営委員会が前夜祭だとかで前の晩からはしゃいでいたのを、人ごとの距離で見守った。
ハタチ前後になっても人間ってこういうことではしゃぐんだな、と、高校の時に思い描いていた『大学生』より、実際の人間の精神的成長速度はゆっくりなのだと知る。
だからだろうか。

思い出はいつまでたっても鮮明で、ノスタルジックに脚色されてくれない。



高校一年の初夏、ベッドに横たわったあきらの、白い顔をいまでもはっきり思い出すことができる。
苦しそうにひそめられた柳眉、汗ばんだ額にかかる栗色の髪、そして、血の気が失われ淡く開かれた唇。

体育の授業中、まるでスローモーションのように倒れたあきらを、のちのちクラスメイトに「姫」とあきらを呼ばしめる原因であるお姫様抱っこで、保健室に運んだときのことだ。
保健医に説明し、ベッドに寝かせてもあきらは目を覚まさない。
もともと色が白かったこともあり、もしかしたら体のどこかが悪いのではと不安になりながら上掛けを整えた。

そのうちに保健医は席を外し、自分も授業に戻ろうと、最後にあきらを振り返った・・・その瞬間。

目が、どうしても離せなかった。
淡く色づいた唇に、自分の全神経がそそがれた。

入学式の日に、はじめて話しかけたときの、焼けつくような感情。
オレを見ろ。
気づけ。
オレに気づいてくれ。

あの時は、わざと挑発するような、いじわるの仕方でこちらを向かせることしかできなかった。
そんな稚拙な感情の発露を、ただやんわりと受け止め、微笑みが返された時、本当はすべてが決まっていた。

そっとその頬に手を添える。
これから自分は罪を犯す。
その意味をかみしめるように、息を止めた。

息を吹き返すまでの数秒、唇を重ねた。




「―――俺、あきにキスしたことがある」


その言葉に、ずっと目も合わせなかった彼が、するどく、こちらを振り返る。
「高校の時」
「・・・。」
同性からのその告白に、彼の目には嫌悪はない。
けれど静かな、でも確かな怒りが見える。
理由は、隼人には手に取るようにわかる。
もし。
「オレも、お前があきに同じことしたって聞いたら、そういう顔をする」
「・・・・・・。」
交流試合にとこの大学を訪れた、この、かつての同級生をまちぶせし、いきなりそう切り出した。
連絡先も知らない彼と、言葉を交わすのは最後の機会かもしれない。
悠長な再会の挨拶など、文字通り無意味だ。
また、むこうもそんなものを歓迎していないのは、言われなくたって分かる。
「なぜ、俺にそんなことを」
当然の質問だろうが、隼人に答える気はない。
正論の疑問は、心の鎧に似ている。
本音で語ることを避け、うわべの会話を続けるための保険だ。
本来、それは隼人の得意とするところ。
だが今は、彼と言葉で遊ぶ気はない。
「ちなみにあきは、知らない」
彼の顔色が、さらに変わる。
険しさを増し、目だけで咎めてきた。
「言うつもりもない」
「・・・なおさら、なぜ、俺にそんなことを」
同じ言葉なのに、先ほどとは意味も重さも熱も変わる。
「あきは、変わった」
「・・・。」
沈黙は、
「小金井、お前に関係があることだろう」
肯定の、あかし。

これで彼は、立ち去れなくなった。
狡猾に、相手の弱点をからめとる。
彼は、隼人の言葉を、聞かざるをえなくなった。
獲物はかかった。逃がさない。
それを呼吸から読み取り、隼人は語り始める。

「俺は、あきの目がほしかったんだ」



あきらの目を通した世界を、見てみたかった。
それはどんな色で、どんなやさしさで、愚かなものも受け入れ、ただ静かに温めるような風景だろうか。
それを一緒に覗き込むことができれば、自分も近づけるだろうか。
あのやさしい生き物に、少しは似た生き物になれるだろうか。

「あきが部活で描いてた絵をもらったんだ。あきが見ている景色がほしかった。あの頃の俺は、あきがいれば呼吸ができた。人を思いやるとか、そんな恥ずかしいことが、呼吸することみたいに簡単にできる気がした」

きっと同じだよ、と、何も知らない顔であきらは笑った。
その無条件のやさしさが、隼人を救った。

今度は、隼人の番なのだ。
彼を、救いたい。
その方法は、あの日の罪を告白することではない。
あきらに話しても、それは自分の気持ちが楽になるだけだ。
償いは、自分を救うために行われてはいけない。
それは償いとは言わない。
「あきは、ある時から変に過敏になって、人に触られると怯えるみたいにビクついてた。そのくせ、無理して笑うんだ。痛々しいくらいに」
その原因は、あきらの胸を、一目でいっぱいに満たした、こいつだ。
こいつ以外、誰もあきらの胸を満たさないのだろう。

そのことが、こんなにも、胸をたたく。
辛くて、苦しく、子供のように悶えて暴れたい。

けれど、あの絵をゆずり受けたときに知った。
見たかった景色を目にしたとき、静かに、ただ静かに涙が流れた。
決してこの景色は、手に入らないと思い知った。
できることなら、見たかった。
こんな風に、世界を。
あきらと同じ世界を、見たかった。

名前を付けることのできないこの苦しみを、喜んで一生持ち続けるだろう。

隼人の贖罪は、こんな陳腐な懺悔ではない。

「あきに、何か伝言はないか?」

彼の目を見返す。
じっと。ただ、ひたすら。



本当に、隼人の悪い癖だ。
話したいことだけを話し、相手と会話する気があるのかと疑われるようなことを、一方的に話す。
ちょっと前に、友人に指摘されたとおりだ。



二人の間に何があったか、永遠に知らなくていい。
ただ、あきらを救うすべがあるなら、己はすべてをかなぐり捨て捧げるだろう。
できることのすべてを、なりふり構わず成し遂げる。



隼人の本気をくみ取ったのか、静かな目で彼は語った。

あきらへの言葉を、静かに。















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