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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

03いままでとちがうこと

気がつくと、隣をあるく秀也の歩調が少し早くなっていた。
機嫌が悪くなると出る、彼のクセの一つだ。
「秀也?」
そっと声をかけると、無言のオーラが返ってくる。
相当、機嫌が悪いらしい。
心当たりもなく首をひねっていると、もそりとした低い声が何かを言う。
聞き逃しそうになりつつも、必死に拾った音の連なりは「さっきから、そればっかだな」。
「・・・何が?」
返せば無言が返ってくる。
こうなった秀也は、相当手ごわいことを経験上知っている。
根気強く待っていると、怒ったようなぶっきらぼうな声が降ってきた。
「お前、今日これで何度目だよ。・・・水守の、話」
ああ、と、その言葉にようやく合点がいく。

さっき部室にいたら、泥にまみれた水守が来てね・・・そんなたわいのない会話の突破口以降、関連して出てくる水守の面白おかしいエピソードに事欠かなかったため、二人の帰り道は自然と、水守を話すあきら、黙って聞く秀也、の図が出来上がっていたのだ。
そもそも、秀也は水守が苦手らしく、彼の話をするといい顔をしなかった。
けれども今日の泥んこ事件はあまりにもインパクトがあり過ぎて、会話から避けて話すのも不自然だったのだ。
まさかここまで機嫌が悪くなるとは思わなかった。
謝るのもおかしな話で、かといって他に何か話すこともなく、徐々に二人は黙ってしまった。特に何かない限り、帰り道はいつも一緒になることが多い。クラスが違っても、生活のリズムは大抵一緒で、家が隣なのだからと下校するのに何の不思議もなかった。
朝だけは別で、朝練があるところはさすが運動部、バスケ部の秀也と文科系のあきらでは登校時間が2時間違うため、その分、ムキになったように帰りは合わせるようになっていた。
お互いにクラスに友達もできたし、部活や委員会、人間関係は広がっていく。
けれど、こうして自然と並んで歩くことが当たり前すぎて、その是非について考えたこともない。
「じゃあな」
そっけない声に我に返ると、互いの家の前に来ていた。
何か言おうかと思ったけれど、いい言葉が浮かばなかったので、うん、と片手を振って別れにかえる。
また明日、気まずくなっても日が変われば何もかもリセットされている。
幼なじみ歴、15年。
それはこれからもずっと変わらないと思っていた。



「なあ、今度の日曜、お前んち行っていい?」
身を乗り出してそう尋ねたのは水守で、その鼻の頭にすりむいたらしき傷が付いていることが気になって、返事が数秒遅れた。
「約束しただろ?」
約束、という言葉に心当たりはある。
何日か前に、新作のテレビゲームのソフトを買ったから、一緒にやろうぜ!と背中をどつかれたのだ。
対戦式だというそのソフトはあきらも知っているもので、前作を、気乗りしない秀也を無理やりつきあわせて遊び倒した記憶がある。
ゲームをやるからには室内で遊ぶしかなく、かといって言い出しっぺの水守は、4人兄弟の末っ子ゆえに、テレビの使用権が家族で一番低いのだという。
せっかくの新作が宝の持ち腐れだ、遊びたい遊びたい!とクラスの男子の輪の中でわめいていたのを他人事のように聞いていたあきらに、なぜかお鉢が回ってきた。

なあ、お前って兄弟何人?
一人っ子だよ。
え、じゃあ、ゲームとか、奪い合いになんねーの。
ならないね。
じゃあさじゃあさ、今度おまえんち行ってもい?あ、ゲームの本体持ってるか?

あとはあきらが苦笑いするしかない勢いで、ぜってーぜってー約束な!と何度も背中を叩かれる羽目になってしまった。
あのことだと、納得する。
「うん、いいよ」
「やっり!」
このところの梅雨入りで校庭が使えないサッカー部は、日曜の練習試合も流れがちでヒマなのだという。
高校に入ってできた新しい友人に戸惑うこともあったが、水守の強引さは別段、秀也が毛嫌いするほどではないと、あきらは思っていた。
開けっぴろげで自分にはない無邪気さが、同じ年なのに弟ができたように感じられて、少し不思議な感覚だった。

日曜、昼飯食ったらすぐ行く!の宣言通り、午後になるかならないかのうちに水守はやってきた。
そもそもお互いに学区内だから、自宅は自転車ですぐの距離だったらしい。
秀也以外の友達が家に来るのが珍しく、あきらの母は張り切り気味だった。
「あき、これ持って行ってちょうだい」
うん、と返事をするのと同時に、しまった、と思ったがもう遅い。
トレーに載せられたお菓子とジュースを取り落とさないよう、そっと振りかえると、水守と視線があった。
「あき、って?」
聞かれてしまった。
あきらはため息をつく。
あきら、略してあき。
家族だけが使う自分の愛称なのだが、それが女の子みたいだから外では絶対につかわないでと、中2くらいのときに懇願した。
母はその教えを忠実に守り、確かに外では、使わなくなったその呼称。
家の中だからと、完全に自分も油断していた。
いつもは秀也くらいしか聞くことのない呼び名だ。
「うん、そう、親は呼ぶんだけど」
女みたいだから嫌なんだ、学校では内緒ね、と小声で付け足すと、にっかと例によって満面の笑みが返ってきた。
「おう!」
でも俺、お前のことあきって呼ぶかもしんない。
そう付け足された言葉に、やめてくれよ、と弱々しい抗議を試みたが、一笑に付されてしまった。
学校で言いふらしたりしないよ、という言葉に一応安堵しつつも、気まり悪さで居心地が悪い。
「ま、いいからやろうぜ!昨日からもう楽しみで楽しみで寝らんねえっつの!」
はしゃぎながら2階のあきらの部屋へ先にかけ出す水守は、本当に小学生みたいで笑いを誘った。
背はあきらよりもはるかに大きいのに、本当に無邪気で小さい子供みたいだった。
でも秀也の方が大きいな、と背中を見ながらあきらは思った。
現に、あきらの部屋の戸は低く、秀也なら何度もそのてっぺんに頭を打ち付けていたのだが、水守はそんな様子も見せずに、スムーズに入っていけていた。

久々に他人とするゲームは面白く、時折言い合いになりながらも、さすがに高校生だ、喧嘩になることもなく始終笑い声が絶えなかった。
秀也とは、ここまで盛り上がれない。
秀也はあまりゲームが好きではないようで、自分もここのところ集中してやることもなかった。
だからだろうか、本当に久しぶりにおなかの底から笑えるほど、楽しかった。
気がつけば、昔からの友達のように、遠慮なく肘で小突いたり、コントローラーで殴る真似をして、まるっきり小さな子供のようだった。
「あーおかし。お前、学校じゃ全然こんな笑わねーのに」
水守がジュースを煽りながら言う言葉に、あきらは苦笑した。
「いや、普通だよ。水守が特別なんだよ」
別にクラスでいじめられてるわけでもない。
ほどほどに会話をする友人もいる。
「そうか?」
「うん。でも、たまにはこういうのもいいね」
「そっか!」
妙に嬉しそうな顔をして、水守が鼻の下をこすった。
先日ついていた傷も消えている。
「また、遊ぼうぜ。ゲームもいいけど、他の奴も混ぜて、缶けりとか!」
「はぁ?」
さすがのあきらも、絶句した。
「いいじゃねーか。缶けり。超燃えるぞ。高校生が本気で缶けっとばすんだぜ、そんで全力ダッシュ。ありえねえくらいエキサイトするわけよ」
想像もしたことなかった。
しかし水守の口から語られるその風景は、とても楽しそうだった。
間違っても、秀也がやろうとは言いださない提案だった。
「いいね。おもしろそうだ」
「決まりな!」
手にしていたジュースを置くと、少し水守は改まった声で話しだした。
「お前さ、学校ではいつも静かにしてるし、俺がいつもからんでばっかりだろ。迷惑かもなって、ちょっと思ったりもしたんだ」
随分、気恥かしい告白が始まった。
茶化してはいけない気がして、あきらも姿勢を少し正す。
「でも、お前って本当に真面目だよな。俺がどんなにバカやっても、絶対にバカにしたりしないし、一言一言、真面目に聞こうとしてくれる。耳をかたむける、っていうの?聞こうとしてくれてるのが、こっちもわかるっていうか」
随分、買いかぶられているようだ。
そんな立派なもんじゃないよ、と言葉を挟もうとして、一つ呼吸を置く。
今は水守の言葉を聞いておこうと思った。
「それが、嬉しかったのかもしれない。もっと色々お前と遊びたいし、一緒にいろんなことやってみたい。ゲームとか」
「缶けりとか?」
あきらの言葉に、水守は照れた笑みを浮かべた。
「そー。缶けりとかな」
「うん、俺も楽しみ」
真面目なことを話してしまった気恥かしさと、その内容の嬉しさと、ごちゃ混ぜになった照れが、心の奥をくすぐった。
「へへ、よし、今日中にこの面クリアしようぜ!」
「できるかなぁ」
「やるんだよ!」

結局、白熱した対戦は夕方まで続き、あきらの母の強い申し出で、夕食まで共にした。
家族や秀也以外と囲む食卓は不思議で、それが少しも嫌ではなかったのは水守の人懐こさだろうか。





あ、今日も、秀也の機嫌が悪い。

あきらがそっと隣を見上げると、案の定眉間に深いしわが寄っている幼なじみがいた。
歩調は速め。
置いて行かれないように足をすすめるものの、ふと、違和感を感じる。
なぜ、自分はこんなにも秀也に気を使っているんだろう。
追いつこうとするんだろう。
いつも自然だった秀也の隣の位置が、こんなに居心地が悪く感じるなんて、初めてだと思った。
気が付いたら、足が止まっていた。
秀也は気付かない。
距離はどんどん広がっていく。

変なの。


そのまま少し間をおいてから、あきらはわざとゆっくり歩き出した。
そしていくつかの角を回ったところで、思い切り腕を掴まれる。
「!!」
反射的に振りほどこうとして、相手が秀也だと分かった途端、怒りとも脱力ともつかない感覚が襲ってきた。
なんなんだ。
「離してよ」
小さく抗議したが、秀也の力は緩められない。
「なんなの」
「・・・昨日、おまえんち、誰か来てた?」
「え?」
昨日なら、水守が遊びに来ていた。
けれど、それがどうしたのだろう。
「お前の家に前に、マウンテンバイクがあった。お前、乗らないだろ」
水守が乗ってきたものだろう。
玄関先に止めてあったのを、隣家の秀也が見かけてもおかしくはない。
おかしくはないのに、なんでこんな風に問い詰められているのだろう。
「痛いよ、離して」
もう一度言うと、今度はさらに引き寄せられて拘束が強まる。
両腕を掴まれ、体の向きを変えることすらできない。
精いっぱいの抗議として、あきらは顔をそむけた。
「なんなんだよ、いったい」
「なぁ、あきら。お前、最近・・・」
俺のこと、避けてるだろ、秀也はそう言った。
「はぁ?」
全く心当たりはない。
むしろこうして下校しているのは相変わらずだし、朝はもともと一緒に登校していなかった。休み時間も、教室が離れていることもあり、わざわざ寸暇惜しまず会いに行ったりはしなかった。けれどそんなの今更で、どこにとがめられる要素があるのか、あきらには分からない。
「避けてない。それよりも秀也の機嫌が悪い方が、意味分かんない」
今のこの状況だって、なぜ拘束されて問い詰められているのか、あきらには理解できない。
「・・・・本当に、か」
「え?」
何度めだろう、間抜けな声でこうして聞き返すのは。
「本当に、分かんないか」
分からない。
そう思ったのが顔に出ていたのだろうか、思わず見つめ返してしまったあきらを、秀也は苦しそうな表情で見おろしている。
「お前、本当に分からないのか」
「だから何を・・・っ」
最後の言葉は、言葉にならなかった。

絡め取られた。

唇で、唇を。

「・・・・っ!?」
仰天して身を離そうにも、引き寄せられた両腕はがっちりとつかまれたままだ。
至近距離に、秀也の顔がある。
先日教室で見た時にも思った、長いまつげ。
そして、この感触。
あの日、保健室で眠っていた自分に起こった不思議な体験。
あれは夢ではなかったのだ。
その証拠に、あの時と同じ口づけが、なんども、なんども自分に押し当てられている。
「・・・・ゃ・・・っ」
唇が離れた瞬間に抗議しようとするのだが、それすら唇でふさがれてしまう。
なにが起きているのか、あきらには本当に分からなかった。
ただ、徐々に熱を帯びてくるキスが、深さを増してくるのを茫然と受け止めていた。






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