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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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08すきだということ

1位  水守隼人
 ・
 ・
 ・
7位  木下あきら
 ・
 ・
 ・
19位 小金井秀也


掲示板の前で、あきらは固まってしまった。
夏休み直前の、テスト結果が張り出されたのだ。


「うわ、水守すげー」
「水守に負けたとか解せねえ」
「せんせー水守ぜってぇカンニングしたぜこれ」
掲示板の前で各々好き勝手なことを話すクラスメイトの頭を、一つ一つ律儀にぶったたきながら、水守は澄ました声を出した。
「お前ら、1位の吾輩が、いったい誰のカンニングをするというのだね?」
確かに、周囲は彼よりも点が低いのだから、参照しようがない。
「つーか、あき、すげえな!」
あきらに気づいていたのか、パッと顔を輝かせて振りかえった水守に、なんと答えていいのか分からない。
7位よりも1位の方がすごいのに、なぜ称賛されているのか、あきらは理解に苦しんだ。
「古典、ぶっちぎりじゃねえか」
各教科の点数で、総合点こそ7位だが、古典だけを見てみれば、確かにあきらは学年で1番だった。
「俺、古典苦手なんだよな。今度教えて」
学年1位が言うと嫌みにも思える台詞だが、水守を知るものなら他意はないと分かる。
苦手って、その点数で!?とあきらが言うよりも早く、別の級友が代弁をしてくれ、それに水守が何か言葉を返して笑いが咲いた。
不思議だ。
水守は誰からも好かれる。
あきらの知る限り、彼を良く思わないのはたった一人だ。
ひときわ背の高い秀也が、掲示板の前で不機嫌なオーラを全開にしている。
「秀也、すごい。やっぱり理数系に強いね」
1位が7位を褒め、7位が19位をすごいと褒める。
なんだかあべこべだなと思いながらも、あきらは屈託なくほほえむ。
こうしてまた自然と話すことができることを、一番喜んでいるのは自分かもしれない。
秀也はなにごとか考え込んでいるようで、あきらの言葉には答えない。
全学年200人弱、この順位はお互いに決して恥ずかしいものではなかった。
けれども秀也の表情は険しい。
そこへまた、最悪なタイミングで水守が声をかける。
「あきー、テストも終わったんだから、みんなで遊び行こうぜー」
「!」
瞬間、振りかえったのは秀也の方だ。
あ、怒ってる。
あきらはどこか冷静にその表情を分析した。
背の高い秀也が、すばやく振りかえったものだから、水守は面食らっている。
「・・・いや、お前のことじゃねーよ?」
秀也が振りかえったのを、呼ばれたと勘違いしてのことだと思ったのだろう。
だがこの場合、勘違いしているのは水守の方だ。
「あ、秀也、この人が水守。いつも話してたでしょう」
不穏な空気にさせまいと、あきらが取りつくろった苦労をまるで無視し、秀也は不機嫌なオーラを隠そうともしない。
「へー。あき、俺の何を語ってくれてたわけ?」
『いつも話してた』という言葉を取り上げ、水守が目を丸くする。
変な所にばかり絡む奴だなぁ、とあきらは内心焦った。
「ええと、いろいろ」
「ははーん、さては俺に惚れたな?」
「はぁっ!?」
思わず声が裏返ったのは、秀也の手前、焦るキーワードが出てしまったことだ。
「そーかそーか、あきは俺にメロメロか。仕方ねぇな。俺の魅力は罪レベルだからな」

あああああ。

あきらにとっては慣れた軽口も、機嫌を損ねている秀也にとっては神経を逆なでするに違いない。
「えーと、秀也、今日、俺部活あるから帰りは・・・」
「待ってる。そっち迎えに行くから一緒に帰ろうぜ」
斬りつけるように告げ、秀也はそのままE組の教室へと入っていった。
「なんだ?あいつ」
「あー・・・幼なじみなんだけど、ちょっと愛想が悪いっていうか」
水守に一応のフォローを入れようと試みるが、水守自身は特段興味もない様子で、すぐに別の級友と無駄口を叩きはじめた。
あきらは一人、今日の帰り道がはやくも憂鬱に思えてきた。



「あき、って呼ばせてるのか」
「・・・・・。」
美術室まで迎えに来た秀也は現れるなり不機嫌で、それがあの日の事を思い出させる。
隣の準備室には、まだ部の先輩がいるので、自然と声が抑えがちになった。
「不可抗力だよ。俺だってやだよ。でもウチに来た時に聞かれちゃって」
簡単に説明をすると、秀也は深くため息をつく。
「お、木下が最後か。カギよろしくね」
「はい、お疲れさまでした」
先輩が準備室から出てきて、別れを告げる。
二人きりになってしまった。
「ええと、帰ろうか」
「・・・・。」
提案は無言で却下されたようだ。
「俺だって、呼ばせてもらってない」
「何言ってんだよ。あれは母さんが勝手に呼んでるだけで、別に深い意味はない呼び名だし」
「・・・・あきら、俺、いますごくかっこわりい」
「・・・・・・・・。」
言わんとすることがなんとなくわかるだけに、あきらも居心地が悪くなる。
けれど秀也は逃げることを許さない。
「・・・なぁあきら。すこしだけ、触れていいか」
「・・・・・。」
許可を取れと言ったのは自分だ。
けれどこうして改めて口に出されて、それにいいよと答えるのは、相当恥ずかしいと思い知る。
「触れるって、どうする気だよ」
それを確認してからでないと、・・・傷つける。
困った顔で見上げれば、秀也はすとんと床に腰をつけた。
一応掃除がされているとはいえ、直接座るには汚い。
いわゆる体育座りをし、足を広げた秀也は、無言で指をさす。
ここに座れ、とでも言うように。
「なんだよそれ・・・」
「いいから」
ちっとも良くない。
けれど、別段変なことをする雰囲気ではなさそうなので、警戒しながらも背中を向ける。
体育座りの両足の中に、体育座り。
背中を向けているから、秀也の表情はあきらからは見えない。
「・・・・・これでいいの?」
「ああ」
その瞬間、ふわり、と空気が動いた。
背後に座っていた秀也が、そっと、自分を背中から抱え込んだのだ。
まるでしゃぼん玉を抱えるかのように、触れたら壊れるものを大事に取り囲むように。
かすかに伝わる熱が、気恥かしい。
「ええと、どれくらいこうしてればいいの」
「俺の気が済むまで」
「ええと、恥ずかしいんですけど」
「なんで敬語」
「だって」
秀也が、妙に怒っているから。

いや、そうじゃないな。

あきらはすぐに自分の考えを訂正した。
「・・・拗ねてる、んだよね」
「・・・・。」
図星だったのか、答えはなかった。
呼び方なんて、どうでもいいのに。
秀也は秀也で、水守は水守だ。
何と呼ばれても、あきらはあきらだ。
「これからもそうやって、ただの友達を警戒したら、疲れない?」
秀也はあきらが好きだと言った。
そういう意味で好きなのなら、些細なことでもやきもちに変わるのかもしれない。
けれど、あきらがそういう意味の好意に向き合おうと思っているのは、世界でたった一人だけだ。
「疲れる。すっげえ疲れる。でも、仕方ないんだ」
秀也の声は、ため息交じりだ。
「俺はあきらの周りの全部に嫉妬する。好きなんだから、仕方ないだろ」
返事がしにくい言葉だ。
けれど、心に貯めこまずにこうして話してくれることは嬉しかった。
「そうか、そういうもんなのかな」
あきらには、いまいちピンとこない感覚だ。
でも、茶化してはいけないことは分かる。
あきらは、背後の幼なじみを振りかえった。
「気持ち、話してくれてありがとう」
「・・・・。」

自然と。

本当に自然と、唇が重なった。

あんなことがあったのに、あきらは恋愛感情がないのに、それでも唇が触れ合うのがとても自然だった。

どちらともなく、距離を縮めた。
ためらいがちにほほに手が添えられ、あきらは目を閉じる。
怖くなかった。
ただ、大切に向けられた言葉を、できるだけ精いっぱい受け止めたかった。

唇は一度離れ、もう一度だけ静かに重ねられた。

むさぼるような、奪われるようなものではなく、そっと熱を分け合う儀式に思えるふれあいで、あきらは頭の隅で、自分の感覚が麻痺してきたのかもしれないと自省した。


お互いの熱をはかっただけ。
そのくらい、いつかのふれあいとは全然違った。
お互いを大切に思うものだけが交わす、優しいふれあいだ。

ちゅ、と駄目押しのように唇をついばまれ、やっと二人の距離が開いた。

「これ以上優しくすると、俺、つけあがる」

秀也がかすれた声を出すのは、気が高ぶった時なのだとあきらは知る。

優しくしたんじゃない、と説明しようとして、やはり言葉を飲み込む。
あきらにも説明できない。
キスをすることが自然だなんて、おかしい。

でも、本当にそれが自然だった。

何かに言い訳するように思いながら、帰ろうか、と笑って立ちあがる。
秀也も無言でそれに倣い、すこしだけ不思議な気分で部室を後にした。



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