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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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09いまはまだ、きづかないこと

どうして、キスなんてしてしまったんだろう。



気恥かしさで、軽く死ねる、と思った。


あの時は、それが自然だったから出来てしまった。
けれど一晩経って冷静に鑑みると、なぜあそこで唇同士ふれあってしまったのか。
ちゅ、という水音が鼓膜によみがえり、身もだえしたくなる。
そんな「思い出し恥ずかし」を傍観していたクラスメイトが一言。
「・・・何やってんだ、お前」
その言葉で我に返るものの、恥ずかしくて本当は今すぐここからダッシュで逃げたいくらいだった。
けれど、学級日誌を書きあげなければ帰宅できない。
日直となった自分を呪いつつ、あきらは、なんでもないっとむくれてシャーペンを動かした。

授業内容、掃除当番の班、一日の出来事・・・なにもなし。
なぜか、水守が書き終わるまで待ってくれて、一緒にフライドチキンを食べに行こうという。
こんな暑い中、脂ぎったものがよく入るねと呆れると、お前はもっと油分を摂取すべきだ、と真顔で言われてしまった。
そういえば、初対面でも、もっと太れ的なことを言われたような。

「夏だなー・・・」
水守がつぶやく。
開け放った教室の窓は全開で、ぬるい風が重いカーテンを揺らしていた。
放課後になると、あらゆる空調がすべて止められてしまう。
経費削減、エコ、呼び名はどうでもいいが、こうして教室に残らざるをえない生徒の身にもなってほしい。
どうせ、職員室はガンガンにクーラーがきいているのだろう。
「夏だねー・・・」
そう言いながら思わず窓の外を眺めてしまう。
試験も終わり、夏休みがすぐそこまできていた。
夏休みになったら何をしよう・・・と、校庭と青空を見つめながら、ここ最近起こったことをつい思い返してしまう。
春には、こんなことになるとは想像もしていなかった。
どうしていいのか分からないけれど、秀也と前のように話せるようになったから、それでいいと思う。

ふと、視線を元に戻すと、水守と目があった。
目があった瞬間、なぜか焦ったように目をそらされたことに違和感を覚える。
どうしたのだろう。
「はやと?」
「・・・・・っ」
名前を呼ぶと、そむけた横顔が、くっとゆがむ。
「どう、したの?」
「なんでもねー。早く日誌書け」
明らかになんでもない風ではなかったが、本人が言いたくないのならしょうがない。
言われるままに日誌のつづきを書き始める。
「・・・・・。」
視線を感じる。
無視しようにも抗えず、そっと窺ってみた。

その瞬間、 とく と心臓が止まる。

次の瞬間には、止まった血液を取り戻すかのように、体中の血が走った。

激しいものではないが、何かを秘めた真摯なまなざしが、自分に注がれている。
「・・・はやと?」
問いかける。
君は、俺の知ってる君だよね?と、尋ねるように。
今まで見せた事のないまなざしにたじろぐ。
どうしたのだろう。
けれどあきらは感じ取っていた。
こんな緊張を、つい先日も味わったのではなかったか。
良く知っていると思っていた相手が、不意に知らない顔で自分を見つめている。
言いようもなく不安になる。
思わず逃げ出したくなる。
この居心地の悪さを、自分は最近、知ったのではなかったか。
息苦しくなる。
うまく呼吸をする方法を忘れてしまったかのようだ。
そのまなざしから逃げられず、あきらの時は思考と共に止まった。

それ以上何も言えないあきらに、ふと、水守はほほ笑む。
単純なことだが、そのほほ笑みだけで、あきらは何もかも救われた気分になった。
先ほどまでの沈黙が、すべて冗談だというように水守は笑う。
そしてまったく予想もしないことを言い出した。
「・・・あきの絵、早くできねえかな」
「絵・・・って」
「あの油絵」
放課後、部活帰りの彼が、自分のキャンバスを覗き込んでいた姿を思い出した。
そういえば、もうすぐ夏だということに浮かれて、あまり進んでいなかった作品。
それをテレピン油のむせる香りと共に思い出し、あきらは笑った。
「そんなに楽しみにしてもらえると、かえって恐縮だ」
気まずかった空気を振りはらうように、つとめて明るい声を出した。
二人きりの教室で、それは少しだけ、どこかに引っかかったトゲのように違和感を主張する。
からぶったあきらの声が聞こえなかったかのように、水守はつぶやく。
「そしたら、きっと、あきの目を通した同じ景色が、見られるんだろうな」

それが、見てみたい。

ぽつんと、水守が言う。
あきらは何も言えなくなってしまった。
急にどうしたの、と、笑って言えば、この重い空気が少しは軽くなるのだろうか。
いや、違う、と反射的に悟る。
水守の眼は、もうあきらを見ていなかった。
遠くを眺める眼差しのまま、それは窓の向こうにむけられていた。
風が吹き込み、カーテンが踊る。
「たぶん、」
あきらはゆっくりと口を開いた。
「きっと、そんなに変わらないよ。同じもの見てたんだねって、笑えるくらい一緒なもんだと思うよ」
意外なことを聞いた、という、驚いた顔で振りかえられてしまった。
自分の言葉の何に驚いたのか、水守は多く瞬きをした後、いつものように無邪気そのものの笑顔を見せた。
「・・・だといいんだけどな」

さっきまでの重い空気を払拭する、無敵の笑みだ。

「・・・うん、だと、いいな」
噛みしめるように二度つぶやかれ、あきらはうなづきで賛同を表す。
急に寂しいことを言われたから驚いた。
でも、きっと、水守の感じている景色は明るくて、優しいのだろうと思う。
自分の目に映る景色も、それと同じだ。

先ほどの視線や沈黙が心のどこかで引っかかったが、それよりもまず買い食いしなきゃね、と日誌を閉じる。

夏は日ごと色を増し、一年で一番鮮やかな季節は、もうそこまで来ていた。

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