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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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『この輝ける日々』 /00 まずは水守家の事情

水守みなと 15歳。

まずは彼の複雑な家庭環境からお話ししよう。


母と二人暮らしだったみなと少年が、実の父を初めて見たのは、母の葬儀の最中だった。
それだけでもうドラマとしては腹いっぱい、これ以上はご遠慮申し上げたいところだが、話はここからが本番となる。
音信不通の父が、どういう経緯でその訃報を受け取ったか、当時10歳になったばかりの子供に分かろうはずもなく、気がついたら手を引かれ、やたらと豪勢なお屋敷に連れてこられた。
貧乏人だったみなとにとって、カルチャーショックな生活が待っている。

そしてそこには兄が3人いた。

―――うん、お腹いっぱいだ。

みなとは回顧しながら、「心のお腹」が「これ以上はもういらないよ!」と悲鳴を上げるのを感じる。

これがまたひと悶着起きた。

みなとは自分の名前が他にもあったことをそこで知る。
 ショーフク ノ コ 
 フギ ノ コ
 テテナシ ゴ
辞書を引いてもいまどき引かっからなそうな言葉だが、5年も前には実際にそんな単語を口にするホモサピエンスがいたことを、絶滅しゆく彼らの記録としてとどめておくべきか、みなとにはちょっと判断がつかない。

みなとは、本来、御厨湊―みくりや みなと―という名前があった。
しかしその日を境に、父の姓である水守を名乗らされ、名前もなぜか平仮名に変換された。
姓については、まぁ諸事情からやむを得ないと理解できる。
だが、名前の表記を、それもわざわざ家庭裁判所に書類を提出してまで変えられた意味がわからない。
義母となった女性、つまりは水守家の正妻さんが、そうしなければこの家の子として育てられませんと言ったとか言わないとか、「ま、水守家の一種の都市伝説だな」と、兄にして弟の隼人―はやと―がポテトチップスをつまみながら投げやりに言ったものだから、脱力せざるを得ない。彼は都市伝説の定義をなんだと思っているのか。

そう、この兄弟の順序についても、また物議をかもす。

整理のために、あえて説明するとこうだ。

水守家には、みなとのほかに3人の男児がいた。
いわゆる「正妻の子」さんたちで、認知もされていなかった愛人の子の自分とは違うことを、付け加えておく。

長男、和人(かずと)。3歳上。
次男、北斗(ほくと)。2歳上。
三男、隼人(はやと)。みなとと同じ歳。

この三男と誕生日が一緒というのは、さすがに出来過ぎた感がある。
本当にみなとが10月2日に生まれたのか、真実を知る母はすでに鬼籍に入った。
正妻の末っ子と同じ日に出生届を出す、そこに込められた日蔭者の意地と言えばいいのか、それともそれは悪意ある解釈で、本当にその誕生日だったのだろうか。
 いーよ俺、別に一番下っ端で。
隼人の投げやりな言葉に、幼い自分はいちいちビクついていた。
長男次男は、名門中の名門にして、全寮制の中高一貫校に通っているという。
休みの日はわりと律儀に里帰りしてくるので、当時小学生だったみなとと幾分か交流はあった。

まずは和人。
日によく焼けた、褐色の肌と真っ黒な髪、背は高く、初対面で「おっきいくまさんだ」と内心おののいた。
あっけらかんと、そうか、また弟が増えたか!と笑い飛ばして頭をなでてくれたが、今思えば多感な時期だっただろう、おおらかにすべてを受け入れてくれる姿勢は今も昔も変わらず、兄弟の中では一番仲がいい。と、みなとは思っている。
次男の北斗とは、ほとんど口をきいたことがなかった。
神経質そうに、サラサラの前髪を揺らし、銀縁の薄いレンズが冷やかな表情を一層冷たく見せる。
面白いほど和人と正反対で、当然、親しくはしてもらえない。

そして問題が隼人。
意地悪をするでも、優しくするでも、無視するでもない。
定義しづらく、つかみづらい態度でのらくらと心を読ませない彼が、正直一番接しにくかった。
小学校は何らかの配慮で別の学校に通わされたが、中学受験で国内トップクラスの学校を射止めた隼人のおかげで、結局同じ学校に通う気まずさは回避された。
さすが兄弟と言おうか、どこか面影は似ており、まして苗字も住所も年齢さえもおなじとくれば、何も知らない他人が知れば、双子だと思うだろう。
 めんどくせーから、双子ってことで。二卵性双生児。決まり。
隼人の提案は水守家満場一致で可決され、だが昔からその地域に住んでいた水守家の家族構成を近隣住民が知らないはずもない。
肩身が狭く、いじめられたりからかわれるたび、みなとは家に帰りたいと泣いた。
帰る家など、もう水守の家しかないのに。
けれど一度だけ、家を飛び出し、記憶を頼りにバスに乗り、昔住んでいたぼろアパートの近くにたどりついたあの日。

夕闇に浮かぶ街は、知らない場所のようだった。
帰りたかったはずの場所は、思い描いていたものと全く違って、みなとは混乱した。
ここに帰りさえすれば、安心できるはずだったのに。
足がすくんで、動けなかった。
自分にはもう帰る場所なんてないのだと、思い知らされた。

どれくらい、うずくまって泣いていただろう。
足をとめて声をかけてくれる大人もなく、知り合いもなく、暗くなっていくかつての思い出の街。



 ・・・みなと!

その時、彼を迎えに来てくれたのは、みなとにとって、一番意外な人物・・・




「北斗さんだったんだ」
「・・・・。」
「で、結局ご近所さんの手前、学区内の中学に行くわけにもいかないから兄さんたちと同じこの学園に通うことになってね。隼人くんはエリート中学に受かって、エリートコース驀進だぜぇとか言ってたのに、受験で大失敗して、結局地元の公立に通ってる。ここに来ればいいのにって言ったら、抹香くせえ学校は嫌だって。抹香って、ウチはキリスト教だよ、仏教じゃないようっていったのに、隼人くんからしたら、おんなじなんだって。ね、乱暴でしょう?」
「・・・・・・・・・。」
「和人さんはもう大学に移って、今はアパート借りてひとり暮らししてるけど、大学は隣の敷地じゃない。たまに見かける」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「で、問題の北斗さんは、隣の寮棟の寮監だから、まだセーフかな。同じ寮棟だったら、ちょっとさすがに気まずいかなぁ。僕はけっこう慕ってるつもりなんだけど、北斗さんは僕が苦手みたいで」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「っていうのが、自己紹介なんだけど、何か質問ある?」
「・・・ハイ」
神妙な顔で聞いていたルームメイトの2人のうち1人が、顔の高さに手をあげる。
「はい、藤原くん」
みなとが指名すると、この春から高等部へ編入したての藤原健(たける)は、非常に気まずそうに口を開いた。
「ぶっちゃけ初対面で重い。その自己紹介」
「そうかな?」
質問は、もうひとりのルームメイトである幸也に向けられた。
「ユキは中等部から一緒だし、知ってるよね。別にふつーだよね」
「ふつう、って、お前基準じゃふつうなんだろうけどな」
ユキこと木谷幸也(ゆきや)は茶色い髪をかきあげる。
「つーことで、一通り自己紹介も終わったな。みなとも気が済んだな。よし寝よう」
サバサバとした幸也の提案は、健の救いにならなかったようだ。
「俺、明日から水守とどう接すればいいんだよ」
「んー、私生児とか呼ばなければ後は好きにしていいよ」
「だぁぁぁぁぁ!言うか!!高校生にもなってンな誹謗中傷!こっちの品位が疑われるわい!」
消灯時間は過ぎている。
いよいよ寝なければいけないだろう。
3人一部屋のこの寮において、部屋ごとが連帯責任、このメンバーの誰かが何か問題を起こすと、3人まとめて罰則が待っている。
たかが消灯時間といえど、守るべき規範のうちの一つ。

みなとは、この春高校1年生になった。
中学からの持ちあがりだから、特に不安はない。
高校1年の1学期は3人一部屋で組まされ、そこに高校受験で編入した「外部生」を組み込むことで、この隔離された奇異な学園生活に少しでもなじませてやろうという、学園側の心遣いが目に見える。
中等部では4人一部屋だったのだから、内部生は進学をみな心待ちにするのだ。
2年生から、2人一部屋があてがわれる。
3年生になれば、いよいよ1人一部屋制度の導入だ。
さすがにその頃ともなれば、年頃だ、ルームメイトにも家族にも見せられないもろもろがあるのだろうという、大人の配慮がこれまた目に見える。

みなとは、周囲から驚かれるくらい、屈折せずに育った、らしい。
人見知りはしない。
引っ込み思案になることを、境遇が許さなかったせいもあるし、生来オキラクな面も多分にあった。
「そもそも何でこんな話になったんだ・・・」
頭を抱えながらベッドに移行する健に、幸也が淡々とダメ押しをする。
「藤原が、北斗先輩を、あれは誰だって聞くからだろ」
ぱちり、電気が消される。
「だって!まさかンなヘビー設定だと思わねーじゃんか!苗字が同じだし、ちょっと似てるから、兄弟かって聞いただけじゃないか!」
入学式のあと、級友らと談笑している時に、水守北斗とすれ違った。
その時の、冷やかな先方の態度、そして気に留めずマイペースなみなとの姿に、ずっと違和感を持っていた健は、予想もしない形で事情を説明してもらった。
「いーからいーから。明日から長いよー」
無理やり遮り、みなとは目を閉じる。

おやすみ、と、他人に告げて眠る生活。
母が死んでからの毎日が、結局はこんな感じだ。
変わらない。
でも、落ち込んでいてもしょうがない。
北斗がみなとに冷やかなのも、いつものこと。

あの日、自分を探し出してかき抱いてくれたことは本当だから、大丈夫。
ちょっとくらい冷たくされても、無視されても、平気。


みなとは眠りに落ちるまで、何度もそう自分に言い聞かせた。



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