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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

01 ジンクスその1「鍵、折れる」 -1-

 ばきっ

「あっ」
健の声に二人が振り返る。
これから敷地内の校舎に登校、という段になり、最終退室者が部屋のカギをかける、という、別に不思議もない事象の中で、それは起こってしまったのだ。
「鍵、折れた」
健がそう言ってルームメイトの二人を振りかえると・・・。



ものすごく、微妙な顔をされてしまった。
「・・・ごめん?」
無言で責められたのかと反射的に謝っても、二人の表情は変わらない。
真鍮か、鉄か、よくわからないが古ぼけた金属のカギが、鍵穴の中でパッキリと折れてしまった。
手元に分離されたカギの断面を見ると、きらきらと綺麗な粒子だ。本当に素材は何だろう、と、健は見つめる。
いやいや、それどころではない。
もう一度窺うと、神妙な顔をしたみなとが、「・・・お父さん、今日はお赤飯かしら」となぜか女言葉で隣の幸也に話しかけ、「そうだな。あいつも大人の階段を上る時期がきたな」と幸也も鷹揚にきり返していた。
事情が呑み込めないのは、健だけだ。
「?お前ら、何の話だよ」
やべー、これって先生に報告しなきゃかな、とつぶやく健の肩を、みなとがポン、と叩く。
「藤原くん、いいことを教えてあげる」
「なんだよ」
「心して聞いてね」
「だからなんだって」
話が見えずにいら立つ健を、みなとが優しい笑みで見つめている。
「宮ノ森学園ジンクスその1。部屋のカギが折れた生徒は・・・学園内の生徒に、惚れられる」
みなとの言葉に、健は怪訝そうな表情を隠そうとしない。
「・・・・・男子校だぞ、ここ」
こくり。
みなとは、うなづいて一言。
「ご愁傷さま」
「はあああああああああああああああ!?」
健の大絶叫に、ちょうど隣室から出てきた生徒がびくりと肩を震わせた。
「なんじゃそりゃああ!!」
「あー藤原は外部生だから、このガッコのジンクス知らねえんだな。7つあるぞ」
幸也の言葉に、律儀に突っ込み返す。
「それ七不思議って言わないか!?つか、なんで男に惚れられるジンクスなんだよ」
「実績があるからだ」
幸也の答えは簡潔で、みなとも同調して首肯する。
「それも、ジンクスとして定着するくらいに」
「気持ちわりいこと言うな!のろいか!?鍵穴に刺さって折ったから、部屋入れねーじゃんって、あてつけか!」
「俺たちをそんな小さな人間だと見くびられても困る」
「本当だよ、僕たちは真実を教えてあげているのに」
ルームメイトにして内部生の二人に言われてしまっては、健の劣勢は明らかだ。
「でも、本当にこのジンクスは大当たりだから、気をつけてね」
みなとがダメ押しのニッコリ笑顔を披露し、幸也も男前オーラを全開にしてうなづいている。
「なんたって、みなとで実証済みだからな」
「はあああああああ!?」
「見てればお前にも分かる。それより、行くぞ」
俺たちの教室はC棟だな・・・と先導する幸也の背中に、健は半分祈りを込めて問いかけた。
「冗談だろ!?全部全部冗談だろ!?」

答えは返ってこなかった。


まずは聞きこみ調査。
内部生だというクラスメイトに健が独自の調査を試みた結果、10人中10人が「げ、お前カギへし折ったか!」「えんがちょ!」「近寄るなよ、ジンクスのせいでうっかりお前に惚れたらどうしてくれる!」等と、さんざんな反応が返ってきた。
「あきらめ悪いねー」
傍観しつつ教科書とノートの角を机上でとんとん整えつつ、みなとが感想を述べた時点で、健は半泣き状態だ。
「おかしい!なんかこの学園おかしい!!なんだその気味の悪いジンクスは!」
「しょうがないよ、歴史と伝統だけはある学校だし。まぁあんな金属のカギが折れるなんて、そんなないしね」
「そうだぞー。藤原はどんなアクロバティックなカギの閉め方したんだ」
幸也も興味なさげに付け加える。
「見てただろ!ルームメイトのお前らの眼の前で、ナチュラルにカギ閉めてただろ!」
しかし健にはそれよりも気になることがあった。
「・・・なぁ、ジンクスが実際にある、と仮定してだ。水守が実証済みって?」
聞きたいような、聞きたくないような。
「あれは・・・中学2年の秋だったなぁ・・・」
夢見るようにみなとは宙を仰ぐ。
「僕も、パッキリとやっちゃったんだけど、そのことをたまたま和人さんに言ったら大爆笑されてねー」
和人さん、とは、今春大学に進学したこの学園のOBにして、水守家の長男だ。
「お、みなとにも春か、とかケラケラ笑いながら、先輩から伝わったというそのジンクスを教えてもらってねー・・・。北斗さんが、口元ひくつかせて、身を慎め!とか見当違いのお説教をしてくれて・・・その翌日だったよ」
最後の「翌日だったよ」で、みなとが声のトーンを急に下げる。
「僕の灰色のモテ期到来は・・・そう・・・こんな風に・・・」
怪談風の口調のまま、みなとが己の机の中に手を差し入れ、目の前にかざしてみせる。

封筒が、3通。

「いつの間にそんなん入ってたんだ・・・」
「毎朝これをチェックしないで教科書とか突っ込むと、ぐしゃっっていくんだよ、手紙がよれて、こう、ぐしゃっと」
言いながら、3通の白、薄い青、淡い緑の封筒を机の上に並べる。
「本当にあの日の次の日から、こんな。同じ人が何通もっていうのもあるし、知らない人から熱烈に、恋文を賜る日々だよ」
「・・・いたずらとか、果たし状とかじゃねえのか。あと、罰ゲームだとか」
健の台詞は、半分希望でもあった。
そうであってほしいという希望。
しかしみなとは、ほう、とため息をついてみせる。
「この学校の悪いところは、そういう異質なことに慣れっこになっちゃうところかな。いくら年頃の男子だけでうごめいている学び舎でも、僕らは健全な男子。女子と一緒にカフェーでお茶したり、映画を見たり、どきどきと手をつないだりっていうのに憧れるじゃない」
「個人差はあると思うけどな。あとうごめくとか虫みたいだからやめろ」
幸也は冷静につっこむ。
「あと、カフェーって古い。明治時代かお前」
「まぁユキのツッコミは放っておいて、と。けれど、こうも寝ても覚めても男ばかりだと、倒錯する人も多いみたいで。道を踏み外さないように藤原くんも気をつけて」
みょうな先輩アドバイス風である。
「水守はともかく、俺は惚れられたりしねーと思うけど。お前は美人だしな」
ぼそっと健が呟くと、みなとは、え、なんで、というように振り仰いでくる。
みなとは、男から見ても綺麗だった。
女生徒のいないこの環境限定なのかもしれないが、女顔で繊細な体つきや、色素の薄くてさらさらした髪は、同性だというのに触れてみたくなる。
加えて、声が涼やかだ。
変声期は過ぎただろうに、それでも耳に優しく響く声は、もっと聞いていたくなる温度だ。
見れば、みなとも幸也も神妙な顔で健を見ている。
なんだよ、と口を開くより早く、二人の冷やかな声が注がれる。
「勘違いするな藤原。あのジンクスは、お前が『惚れられる』というもんだぞ」
「そうだよ、君が僕に『惚れて』どうするの?」
「・・・・・・・・。」
一気に、脱力する健。
「もういい、このことは忘れる」
健の宣言に、みなとは顔をしかめた。
「何言ってるのさ。忘れずに学年主任に鍵穴の取り換え工事とカギ3本、僕と君とユキの分、申請してきてよ」
申込書は学生課の受け付けに置いてある茶色いA4の大きさで、と、丁寧に説明しながら、みなとは封書3通を鞄に入れた。

読まなくても、内容は大体わかっている。

ああ、本当にあなどりがたし伝統のジンクス。



3通のうち1通は、いつも遠くで君を思ってます系の、みなと流に言えば害のない内容。
ハイアリガトサンと心でつぶやき、判読できないように細分化して焼却炉に直接持っていく。

もう1通が、少々面倒くさかった。
焼却炉へ運んだ足をそのまま部活棟に延ばす。
「先輩」
放課後、誰もいないはずのその部屋を軽くノックすると、内側からカギを開けられる音がした。
その隙間から伸びてきた手がみなとを掴むなり、室内へと強引にひきずり込む。
重いカーテンが閉められた部屋はほこり臭く、なぜか積まれているマットの上に、いつものように乱暴に投げ出された。
 今日はずいぶん焦ってるな。
けだるくそう思いつつ、みなとは表情には出さなかった。
かちり、カギが内側から施錠される音。
それが何かは振りかえらなくても分かる。
次の瞬間後ろから強く強く抱きしめられ、うなじに顔をうずめられても、みなとにはいつものこと。
「ちょっと先輩。制服、おニューなんですから、乱暴にされたらしわになる」
おニューなんて言葉、通じるのかな、と反応をうかがうと、特に感想もないのか、何も言わずにネクタイに手をかけられた。
しゅる、と背後からはずされ、ワイシャツのボタンにかけられる指が、もどかしげに一つ一つほどいていく。
相手の呼吸が荒い。
無言ではあるが、相当焦っているのだろう、手付きの乱暴さからそれが伝わった。
「・・・・先輩、ね、僕、怖い・・・もっとゆっくりして・・・」
「・・・・。」
鼻にかかった甘え声を出せば、相手は深くため息をついた。
「うそ、つけよ」
「本当だよ。ねぇ、どうしたの。今日はずいぶん・・・・ぁ・・・っ」
みなとの声は、震えてかき消える。
はずされたボタンの間から、するりと指が忍び込んだからだ。
かり、と悪意ある爪の立て方が、相手の目的を告げる。
「いいから、大人しくしろ」
「・・・・・・ん・・・・」
命令口調はやがて忍び笑いになり、無言のまま『先輩』の指はみなとの素肌をたどりながら、少しずつ動きを強めていった。


「カギ直ったー?」
夕方、自室のドアをノックすると、半泣きの健が扉をあける。
「超怒られた。俺が悪いわけじゃねえのに、業者呼ぶのも手間だとかブツブツ嫌み言われた」
「あららー御苦労さま。もしかして佐久間先生に見つかっちゃったの?」
笑いながら室内に入ると、すでに幸也も部屋に帰ってきていたようだ。
「そう!一番ウルセー先生に捕まった!それがさぁぁ!例のジンクスの件もなぜか広まってて、怒られた!俺が悪いわけじゃないのに、新学期早々問題起こすなと言わんばかりに」
「ははっ。本当に、藤原くんのせいじゃないのにねー」
言いながら自分の机に向かおうとしたみなとを、そっと幸也が押しとどめる。
なに、と目で問うと、静かに胸元を指さされた。
「痕、ついてる。ボタンきっちりしめとけ。あと風呂は今日はやめとけ」
「・・・・・ありがとう」
ふ、と邪のある笑いで胸元をかき寄せ、何も知らない健がまだ何かぼやいているのに背を向ける。

白い封筒は、焼却炉に。
薄い青の封筒は、いま義務を果たしたあと、本人に突き返してきた。
また向こうの気が向いたら、同じ封筒が机に突っ込まれるのだろう。
最後のもう1通。
淡い緑の封筒は、自室の机にしまいこむ。
―――この1通だけは、特別なのだ。



「みなとー飯いくぞー」
学食への移動の誘いに、机の引き出しを勢いよく閉める。
「はーい。ってその前に僕の分のカギ、くれないかなぁ」

そうして、この不思議な日常は続いていく。



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