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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

No number:君にはなせない物語

「夏だなー・・・」

そんなテキトーなことを言ったら、しみじみと

「夏だねー・・・」

という答えが返ってきた。
思わず、あっけにとられる。
冗談だろ、と出かかった言葉を飲み込むのに労を要した。
見れば、言葉につられるように窓を見やって、少し柔らかい笑みを浮かべるあきがいた。

奇跡のような存在。

それが、あきだった。




受験に失敗し、滑り止めの高校に通う。
 ―――だせぇ。超だせぇ。
自信があったから、本命と滑り止めしか受けなかった。
それがアダとなった。
せめて第二志望でも受けていれば、ここまでランクを下げなくても済んだのに、と、隼人は己の青臭さを笑う。
結局、近所の無名な公立に通うこととなった、その時点でもう、高校に対する興味も期待も消しとんだ。
せめてもの救いは、中学の同級生は一人も通ってこないこと。
進学校で有名だったあの中学から、こんな高校に堕ちるバカは・・・隼人しかいなかった。
不幸中の幸いだ。
テキトーにやって、最後はドカンとでっかい大学に入れば、こんなロス、チャラだと思った。
最終的な学歴は大学が物を言うのであって、会社に入った後「で、高校はどこだった?」なんて、聞かれやしないだろう。
ましてやそれに対する回答が、聞いたこともないローカルな学校名だったら、どうだ。
大抵の人間は興味を無くし、ふーん、あっそ、知らね、で終了だ。
そんな感じでいい。
人生はトータルがあってりゃナンボだ。
そう思ってかったるく教室を見まわしていた時、窓際の人物に目が吸い寄せられたのは、今思うと運命だったのか。

柔らかい茶色の髪は、無理に染めたのではなく、細くて柔らかいものが陽をうけて変化した、そんな色。
共学だ、女子は他にも色々いたのに、その横顔の美しさは、時間の感覚を奪うに十分なほどだった。
ミルク色の頬、校庭で散る桜のような唇。
そして栗色のまつ毛に縁取られた、優しい瞳。
あんなに美しい生き物が、自分と同じ呼吸をしていることが不思議だった。
生活感のまったくないたたずまいで、本気で妖精かと疑う。
すべての男子高生に対する冒涜だ。
その美しくて不思議な生き物が、ふと、こちらを向いた。
見つめていることがばれたのか、焦ったのは一瞬で、本人は何事もないかのように手元に視線を落とす。
こちらに気づいたわけではないのだ。

それがたまらなく悔しかった。

こっちを向け、俺を見ろ、そんな思いから、思わず歩み寄る。
突如目の前に現れた隼人に、その少年は気付かない。
周囲を完全に「風景」とみなし、間違っても意思のある尊厳を持った人間が個々に存在する事を忘れたような、浮世離れした鈍感さに、何故か腹が立つ。

見ろ。
気付けってば。

しかし祈りにも似たそんな思いをくみ取るはずもなく、その少年は生徒手帳をめくっていた。
そんなものより、こっちを。
「お前、男のくせにほっせーし白いし、飯食ってるのか?」
わざと、素っ頓狂な声が出るよう、腹に力を込めた。
え、というように顔をあげたその妖精もどきと、隼人はばっちり目があった。
目が合うなり、心のどこかが、納得する。
こいつだ、と。
何が「こいつ」なのかはわからない。
酷い暴言を初対面の人間に寄せられたというのに、その「妖精さん」は怒るどころか、ただ驚いてこちらを見上げている。
どこまで純粋培養で育ったら、こんなに無防備でいられるのか。
「オレ、はやと!水守隼人な!」
そう自己紹介をした瞬間。

ふわりと、空気が動いた。

笑ったのだ、目の前の「妖精さん」が。
隼人がそう理解するのに、実は2秒を要した。
ただこちらを向いてほしくて、注目してほしくて、気が引きたくて、思えばあんまりな話しかけ方をしたのに、目の前の少年は笑うのだ。

わけがわからなかった。

もっともっと、振り向かせて、もっと知りたいと思った。

「木下あきら、です」
そう、言葉で握手をするように。
名乗られたからには名前を、と律儀に返す声は、想像よりもずっとソフトで温かかった。
この声で名前を呼ばれてみたい。
自然と、隼人はそう思った。

思えば一日目から、すでに虜だったのだ。

今までいなかった存在、美しい存在、奇跡のように温かい存在、すべてが特筆事項で、どれか一つを選ぶなどできない。
本当に不思議な少年だったのだ。

つまらない高校で見つけた、たった一つの光だった。



だが、接すれば接するほど、その純粋さに腹が立つこともあった。
自分の想定した反応ではなく、もっと別の次元のものを見つけて、いつもふわりと笑う。
物事の、綺麗な面だけを見ている。
敗北感でいっぱいだった。
なぜだろう、同じものを見ているはずなのに、あきが指し示す風景は、どうしてこんなに優しいんだ。

傷つけたら、どうなるのか。
暗い愉悦が、頭をかすめる。
こちらを恐れるように、その優しい笑みを消し去って、こわばった表情で見つめるあきを想像する。
けれど同時に思う。
そんな表情をさせたくない、思いっきり甘やかしたい。
優しいものだけを、この手から与えたい。

―――どうか、してる。

相反する思いから、時々かなり無神経な言葉をぶつけてみた。
乱暴に扱ってみた。
けれど時折、本音を漏らしてしまうのは気のせいだろうか。
誰にも見せなかった自分の幼さを、必死に守っていたその堅固な鎧を、あきはいとも容易くはぎ取ってしまう。
童話「北風と太陽」で言うところの、太陽を連想する。
力ではぎとろうとする北風よりも、じっと温めて自ら脱がせる太陽。
いつしか、測っていた。
どこまで許されるのか、どこまで受け入れてもらえるのか。
おっかなびっくり沿ってみた心は、思いのほか深い相手の許容量に驚く。
あきは、どこまで俺を受け容れてくれるのだろう。
馴れ馴れしく名前を呼び捨てにしたら、困惑のあと、そっとこちらと同じ目線に立とうとしてくれた。

はやと、と、あの声で呼ばれることがこんなにも嬉しいなんて、おかしい。

思わず自転車から転げ落ち、その場から逃げだしたあの日、自転車をこぎながら訳もなく叫びたくなった。
腹の底から、喜びが駆け巡る。

嬉しい!!嬉しい!!!

何が嬉しいのか分からないけれど、じっとしていられなかった。
じっとなんか、してられなかったのだ。


ずいぶん恰好悪い面を見せたし、みっともない弱さも晒してしまった。
けれど、あきは言う。

隼人はすごいね。
俺、隼人みたいになりたい。
・・・なれるかな?

あきが語る「隼人」は、自分の知らない隼人だった。
必要以上に押し付けないし、距離の取り方がとても優しい。あきはそう言う。
違う、他人とかかわるのはめんどくせーし、必要以上にバカとつるんでもメリットねえし、やっかまれるから能を見せないようにテキトーにあしらってるだけだっての。
けれど、あきには違うように見えるのだろう。
あきの瞳は、綺麗な光を通したやさしいものしか映さない。

自分のことは、嫌いではなかったけれど、どこかでダセェと思っていた。
周りも似たり寄ったりだと思っていた。
けれど、あきがそう見えると言ってくれるなら、変われるかな。
俺、そっち側を見ることできるかな。

あき と、ずっといれば。

いつか、俺も本当にそうなれるかな。
あきの信じた、明るくて強い生き物に。


じっと見つめてしまった自分に気づいてか、あきがこちらを見る。
不意打ちだったので、思わず顔をそむける。
心の準備が必要だった。
こんなに至近距離で見つめているなら、なおさら。
「はやと?」
「・・・・・っ」
名前を呼ばれたことが、さらに気恥かしさを煽る。
それをこらえるのに必死だった。
「どう、したの?」
「なんでもねー。早く日誌書け」
あきは今、学級日誌を書いている。

どうしたら、あきみたいに、優しい生き物になれる。
名前を呼ぶだけで、その声に込められた信頼や誠実さが伝わるくらい。

あきの油絵が完成するのが待ち遠しい。
完成した景色を見れば、ああ、あきの見てる景色ってこんなだったのか、と、見せてもらえる気がする。
「・・・あきの絵、早くできねえかな」
「絵・・・って」
「あの油絵」
突然の言葉をどうとらえたのか、あきは静かに瞬きをする。
「そしたら、きっと、あきの目を通した同じ景色が、見られるんだろうな。それが、見てみたい」
こぼれる本音は、自分でも不思議なほど落ち着いた色だった。
笑い飛ばされても不思議ではない、妙な言葉だ。
中学時代の旧友が聞いていたら指さして笑ってくるレベルだ。
だが、あきは。
また優しく、すべてをただ許容する。

「きっと、そんなに変わらないよ。同じもの見てたんだねって、笑えるくらい一緒なもんだと思うよ」

「・・・・。」

絶句、した。

ああ。


・・・だと、いいな。


あきの見てる世界が、それほど変わらないのなら、そんなに幸せなこと、他に見つからない。


あきには言えない秘密が、一つある。
すべてを許してくれるあきでも、おそらく受け入れてくれないであろう自分の一つの「罪」。
決して打ち明けられない秘密が、ある。
ぶちまけたい衝動に駆られる。
その瞬間、この幸福な日々は二度と修復できないだろう。
それは胸を引き裂くほどにつらい。

けれど心のどこかで、自分はそれを夢見る。
綺麗な優しい風景を、隣で並んで見ることを夢見ながら、同じ速度でもう一人の自分が破滅を夢見ている。


自分の腕の中に倒れてきたあきを、保健室に運んだ。

あの日、自分が一つの罪を犯したこと。



それは、君には話せない物語。
そして手放せない物語。






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