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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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02 ジンクスその1「鍵、折れる」 -2-

思わず見つめてしまいたくなる、大きく澄んだ瞳をなごませて、みなとは微笑む。
「さあ、藤原くんの『ジンクス』はどんな風に発動するのかなぁ」
「天使の笑顔でいらんことゆーな」
健がげっそりと振りかえった。




さんざん周囲からも脅された健は、すでにこの世のすべてを警戒するモードに突入している。
「俺、もうカギかけんのやだ。どっちかやってくれ」
「すでに1回折ってるんだから、もう何回折ったって一緒だよ」
そう言いつつ、みなとはちゃっちゃと3人部屋のカギをかけた。
「あああそうかよそうかよ。俺ぁーどーせビビリだよ。男が男に惚れるとか気持ち悪ぃこたぁごめんなんだよ」
「お父さん、この子ったら反抗期よ」
みなとが真顔で幸也を振りかえった。
「大丈夫だ。母さんの愛は伝わる」
「・・・・なにゴッコだ貴様ら」
げんなりと健が抗議すると、みなとは明るく笑った。
「でも、入学早々出鼻をくじかれたねぇ。ま、気にしないでネ」
「そらぞらしー・・・」
殴ってやろうかと右腕を振り上げた瞬間、健の視界の端で、何かが動いた。
振りかえると、中等部の制服―タイの代わりのリボン―が揺れた。
「?」
あきらかにこちらを見つめていたらしいその中学生は、健の視線に気づいてか、身を縮こまらせた。
「あー・・・キラくんだ」
みなとの声に、健が聞き返す。
「キラ?」
「そ、吉良正則(きら まさのり)くん。中学・・・3年に進学したのかな」
その少年はおびえたように一歩後ずさる。
何故かはわからない。
自分ではないどこかに焦点をあてているらしきキラ少年の目線をたどり、健が振りかえる。
そこには、我関せず、というように歩き出す幸也の後ろ姿が映った。
「・・・道々、説明してあげる」
腕をとられ、みなとに導かれながら健は少年に対して、後ろ髪を引かれる思いだった。
なぜか、切実なまなざしだった。
顔見知りの先輩を見かけただけ、という様子ではなかった。

「あの子、ユキが好きなんだ」
断言だった。
「・・・男だよな?」
「男だよ」
「木谷も、男だよな?」
「お風呂でチンコ見たんじゃないの」
「・・・・お前の口から聞きたくない単語が出た」
こそこそとした会話は、吉良少年にも、幸也にも聞こえない細心の注意を払われた距離でかわされた。
「ユキは女の子が大好きだし、いまも彼女が3人いるんだけど」
「待て、彼女が複数とかその時点でおかしい」
「そのくらい女子が大好きなんだけど」
あきらは健のあげ足をさらりと流す。
「それでも、あの子はいつもユキを見てるね。気がついたのが、去年の今頃だから・・・すくなくとも年単位の片思いなわけです」
「・・・・・あこがれの先輩、とかじゃなくて?」
健の言葉は、質問というより希望だった。
ふう、とわざとらしいため息をつき、あきらは補足説明を続ける。
「藤原くんの言いたいことは分かるけど、この学校、本当にちょっと変わってるんだ。思春期のいたいけなせーしょーねんを、単一の性だけで管理する方針が必ずしも・・・」
茶化そうとして、ふと思いとどまったように、すこし不自然に表情が切り替わる。
「まぁ、中には、本気で恋とかしちゃう人もいるんだ。それは、その人がセクシャルマイノリティだからなのか、人として性を越えた考えの結果なのかは、本人にも分からない」
みなとの口調は明るかったが、表情が暗いことが、隣を歩く健には気になった。
「好きって思っちゃったら、もう、きっと駄目なんだよ。恋って、とらわれたら負けだから、藤原くんも気をつけて。性別とか、常識はこういうとき、味方をしてくれない」
「・・・・・・・・・・水守も、そうなのか」
聞かずにはいられなかった。
あまりにもみなとが、暗く、寂しく笑うから、尋ねずにはいられなかったのだ。
お前は、大丈夫なのか、と。

尋ねられた本人は、え、なにがーとのんきに笑った。

カギが折れた、と、同じジンクスを持つルームメイト。
明るくほんわかといつも笑顔を絶やさない。
けれどそれは、本心からかどうかは健に判定できない。
複雑な家庭環境をてらいもなく語ってみせたみなとだが、そんな風に人に笑って話せるまで、どんな葛藤を越えたのかは本人にしか分からないのだ。
不器用ながらも、思いのつまった言葉は、みなとの心のどこかには、届いたらしい。
本当に天使のように、みなとは微笑んだ。
「藤原くんは優しいね。ありがとう。これから少しずつ、いろんなことを分かりあえるといいね」
「・・・ンだよ、ちいせえガキなだめるみたいに言いやがって」
精いっぱいの照れは、見透かされたのだろう。
みなとは、けらけらと明るく笑い飛ばし、少し先を歩く幸也がこちらを振りかえった。
「お前ら、ちんたらするな」
「コンパスの差だよう。ユキ、足だけは長いもん」
遠慮のないみなとの言葉に、健も幸也もほほを緩ませる。
前途は多難だ。
知るべきこと、知らなくていいこと、健は何一つ分からない。
けれど、知らないことは一つずつ知っていけばいいのだ。
健は、ルームメイトが気のいい奴らであることを、ひそかに感謝しながら廊下を急いだ。
もうじき、ホームルームの時間だ。

そのころには、中学生の片思いの話等、すっかり忘れていた。
健にとって、同性に恋をするという感覚が一切分からなかったのだ。


・・・まだ、その時までは。




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