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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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03 ジンクスその1「鍵、折れる」 -3-



健はふと、気になった。

学園の生徒に惚れられる。
それはつまり。
「なぁ。まさかと思うが、木谷もカギをへし折ったのか?」
こんな異常事態が発生したとなると、どうしてもイレギュラー性―ジンクス―の存在を意識せざるを得ない。





その問いに、みなとはにっこりと振りかえって、何故か親指をつきたてた。
「ウン!よくできました!」
「呪われてる・・・!!!」
思わず天を仰ぎ、健は絶望を表した。
「呪われてんぞこのメンツ!俺のカギ発動も、お前らの余波くらったんじゃねえか!」
「人のせいにするなんて、男らしくなよ」
みなとはしれっと言っているが、面白がってるのはその表情から丸見えだった。
「嫌じゃないのかお前たち」
「嫌って言ったら、現実は変わるの?」
「・・・時々無駄に哲学的だよなー水守って」
話をしても解決する次元はとうに超えている。
「でも、大丈夫だよ。憎まれるよりましでしょう。ジンクスの一つに、そういうのあるから、気をつけて」
みなとの台詞に、不穏なものを感じた。
「ジンクス、他に6つあるんだよな?ちなみに、どんなのだ」
しかしみなとは笑ってはぐらかした。
「いいんだよ、知らない方が。囚われない方がいいよ。今回の一件で、それはわかったでしょう?もし藤原くんがジンクスに抵触したら、ちゃんと教えてあげるから」
早くしないと、ホームルームが始まっちゃう、と、無理にはしゃいでみなとが手を引く。
戸惑いつつ、健もその後ろに続いた。
背後に、そっと歩いているであろう吉良を思い出しつつ、声をかけないのか・・・と、幸也の背を探してみたが、コンパスの差は歴然としていたらしい。
見当たらない。

それでなくても、生徒の朝はあわただしい。
少なくとも、慣れるまでに時間がかかった。

朝、食堂へ。
身支度を整え、教室へ。
そのまま授業を受け、1時間目と2時間目の間に、礼拝。
礼拝の間、学校中の機能が時間をとめる。
具体的に言うと、購買も、図書室も、食堂も生徒は出入り禁止になる。
嫌でも礼拝堂へ生徒を向かわせる方針らしい。

礼拝堂の入り口では、讃美歌の歌集と聖書が配布され、生徒は受け取りつつ席を詰める。この時ばかりは来たもの順で、学年もクラスも関係なく、詰め込まれる。
もっとも、中等部は朝食の後すぐに礼拝の時間がとられるらしく、微妙にもろもろの生活がずらされるのは入浴等もおなじだ。
要は、6学年が一斉に集結すると、収集がつかないのだろう、スペース的にも。
高等部からの健は、中等部のスケジュールなど関係ない。
とにかくみなとと幸也のあとを、おろおろついていけば、大抵問題がない。
そうか、そのための3人一部屋制度か、と、この数週間で実感した。
特異な空間では、人に倣うのが一番手っ取り早い。
若ければ若い分、順応力も高いから、なおさらだ。

讃美歌は毎日変わる。
今日は何番、明日は何番、と、番号を指定される。
中学までは、まったくキリスト教と関係のない生活を送っていた健は、当然讃美歌など一つも歌えない。
けれども、どれもこれも音階は単純なつくりになっており、しかもオルガンで一度主旋律をひいてから「さん、はい!」という無言の雰囲気に促されて歌うものだから、なんどか2番に差し掛かるころには歌えるようになっている。
生徒たちだって、この分厚い讃美歌集のすべてを暗唱できるやつはそういないだろう。

礼拝の際、壇上に立った人物の指定する聖書の項をめくる。
ちなみに壇上に立っている人は、教師ではなく明らかに「それ専用のひと」っぽい。
しかしそれを神父と呼ぶのか、司教と呼ぶのか、健にはまったくだ。
カトリック・プロテスタント・それ以外、の区別は、健のような初心者にはさっぱり分からず、また、理解できずとも支障がないかぎり、覚える気にもなれない。
大体、この無数の生徒たちの中で、本当に洗礼を受けているような本格的クリスチャンがどのくらいいるのかわからない。
少なくとも、みなとは洗礼を受けていない、というので、その時点で、じゃあ俺もいいや、と健の腹は決まった。

ちなみに聖書は「何ページですよー」という指定はしない。
第何章、第何節、という指定のされ方で、その都度、みなとや幸也の力を借りて探しあてる。
とんでもないところに来てしまった。
「・・・旧約聖書と新約聖書の違いが分からない・・・」
「本の分厚さだよ。そんなもんだよ。いいんだよ」
みなとは明るく笑い飛ばすが、いいのかこれで、と思わなくもない。
授業の中には「キリスト教概論」というカリキュラムもあるが、そこでは信仰というよりも、キリスト教の理論、歴史、概念、とういう学術的アプローチだから、まだ救われた。
これで、信仰心のない奴は出ていけ、と言われたらどうしようかと思っていた。

信仰心ゼロの健は、視線を巡らせて周囲の様子をうかがう。
はるか前方の前列の席で、姿勢をまっすぐにし、あきらかに優等生然としている後ろ姿を発見した。
他の生徒の中で、群を抜いて姿勢がいい。
きっちりしてんなー・・・と健があきれ半分、感心半分で見ていると、隣のみなとの視線もそこに注がれていることに気付いた。
みなとは、壇上でマタイの福音書とやらを読みあげている人も、目の前の聖書も見ていない。
まっすぐ、その方向を見つめている。
何度か角度や方角を確認した。
同じ人物を見ているらしい。
そのまなざしがなんだか真剣で、健は茶化すことができなかった。

「はー、マジわかんねえ。アーメンって言うタイミング」
「あれは空気読め、みたいな感じだからね」
壇上の人物が何事か祈った後、1拍おいて全員が「アーメン」と唱和するのだが、素人の健はどうしてもタイミングがずれてしまう。
「空気読めない人が、タイミング外すんだよ。訓練しなよ」
「おかしい。その理論ぜってえ認めない」
みなとと無駄口を叩きながら、健はあの人物を人ごみに探した。
出入口はすべて後方。
あの人は自分よりもはるか前方にいた。
ということは、出てくる順番も相当あとになるはずで、気になりつつも顔を見るのは無理そうだとあきらめる。
明日の礼拝の時にも、探してみようか。
学年は分からないが、この時間帯にいるということは、高等部だろう。
そんなことを思い、幸也を追うように廊下を急いだ。
次の時間は、たしか技術室。
「技術室って、何棟?」
この学園は無駄に敷地が広く、AからGまで名のついた棟ごとに教室が散らばっているので、初心者にはとことん不親切だ。
持ち歩き用のマップでも作ってくんねーかな、とぼやくと、幸也が振りかえった。
「何だお前、もらってなかったのか」
「え、あんのかよ!」
確認は、みなとに向けられる。
「あれ?言ってなかったっけ?」
「聞いてねえよ!」
「生徒会室で無料配布してるよ」
「ナイスだ、生徒会」
しかし、その生徒会室が、健にはわからない。
「昼休みになったら、一緒に行ってあげるよ」
みなとはそう、約束した。


そして昼休みになった。
食堂は3フロアに分かれており、それぞれ和食メイン、洋食メイン、その他カフェテリアっぽいフロア、という豪勢さだ。
学生寮の食堂に行っても食べられる。
というか分散しないと全校生徒の数はかなりのものになる。
「早く食べてとっとと生徒会室行こう」
こんな迷路にいる不安と、さっさとオサラバしたかった。
だが健の提案に、幸也が水を差した。
「悪い、昼は別行動とる。みなと、藤原をたのむな」
「うん」
すっかり健の保護者となった頼もしき2人のルームメイトに、健も感謝を述べる。
「おー。なんかいつもどっちかが俺の面倒みてくれんのな。なんか、悪いな」
「まぁお父さん、この子ったら遠慮をおぼえたようよ」
みなとの例の謎親子ゴッコが展開される。
「母さん、いいからこの子に早く飯をくわせてやりなさい」
「はーい」
仲がいいのだろう、二人はいつもこんな下らないやり取りを交わしている。
けれども、健に疎外感を与えないよう、話題の振り方にも気を使ってくれていることは、伝わった。
年の割には、二人とも大人なんだろうな、と健は思う。
「じゃーお腹ペコペコ組は、とっととご飯、だね」
みなとの先導で、健も歩き出す。


食事はいつも外れがない。
日替わり定食をガツガツ平らげ、猛然と胃におさめつつ、ふと視線を感じて顔をあげた。
「どうしたの」
それまで食事に夢中だった手を止めたものだから、みなとがわざわざ尋ねた。
彼はとろろ蕎麦を食べている。
さっぱりしたものが好きらしいのだが、成長期の高校生としてどうかと常々健は疑っていた。
「いや、なんか誰かに見られてる気がして」
変な違和感だった。
「あまりに食いっぷりがいいからじゃないの。僕もつい見入ってしまう時がある」
「普通だろ。つうか皆オシトヤカに喰いすぎなんだよ。特にお前」
「えぇぇ。異議あり。普通だよ。そっちが勢いあり過ぎなんだよ」
そんな下らないことを言いあい、すっかり違和感のことを忘れてしまいそうになる。
「もしかして、ジンクス発動したんじゃない?」
ちらっといたずらを思いついた子供のような表情でみなとが言い、健のテンションは一気に下がった。
「やめれ・・・いいから早く喰え。生徒会室行くぞ」
最後の3口を一気にかきこみ、咀嚼しながらみなとを待つ。
みなとはいつも綺麗な箸の持ち方で、姿勢も綺麗だ。
庶民育ちだなんて言うけれど、どことなくおぼっちゃんの印象がする。
本人に言っていいことかわからないので、心の中にとどめておいた。
「ごちそうさまでした」
きちんと手を合わせるところなど、まさにおぼっちゃんの集大成だが、健は別のことが気になった。
「そう言えば、食事の前後のお祈りって、しないのな」
「あー・・・天にまします、われらの父よ、本日の恵みを感謝します、的な?」
「そーそーそれ。映画とかで外人がよくやってるやつ」
健にとって、日常の祈りはテレビや映画の中だけの話なのだ。
「中等部では必須だったけど、高等部では自由だよ。そういう方針みたい」
「みなとは、普通のイタダキマスとかなんだな」
それが意外だった。
「別にクリスチャンではないしね」
何となく、周囲に合わせて優等生になりきる・・・その方が、彼らしいような気がした。
そのためには、キリスト教のこの学校で、それらしく振まう方がそれっぽいのでは・・・・健にも説明しにくい違和感を説明しようとし、うまく言葉が見つからないのであきらめた。
「ま、いーや。生徒会室な」
「うん」
食器を片づけ、二人は生徒会室があるというA棟への渡り廊下をめざした。



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