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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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06 ジンクスその1「鍵、折れる」 -6-

「私の君への想いを、試しているのか」
上条が切なげに目を細める。
おそるおそる、みなとのほほに指を延ばし、触れるか触れないかのところで手を引いた。
壊れやすい物を、うかつに触れようとした己を恥じるように、上条は目を伏せる。


それを冷めた眼差しで見つめる3人(みなと本人が一番冷ややかだった)


に、さすがに気まずいのか咳払いで場をごまかした。
「むしろ試されているのは僕の忍耐力ですよねこの場合」
みなとの棒読みの台詞は、冷やかなまなざしといい感じに相乗効果で上条を追い詰めた。
「いや、だから、北斗が悪いのだぁ!」
「逆ギレにも程がある」
話題を振られた北斗も迷惑であることを隠そうとしない。
話が進まないから、と、北斗がいやいや説明をしはじめた。
「兄さんの悪ふざけの一環の、アレだ。写真というのは」
「・・・・あー・・・・。」
みなとが、なるほど、というような顔をする。
水守ファミリーだけに通じる暗号に、健はついていけない。
「あぁ・・・和人さんがね、弟大好き人間で、弟たちの写真をいつも持ち歩いてるんだよ」
「・・・・ごめん、純粋に気持ち悪いんだが・・・?」
健は控えめに、けれどきっぱりとそこを強調してみた。
「弟大好きっていうのはまぁ、半分冗談だろうけどね。あの人なりの皮肉なんだと思うよ。兄弟らの写真を持ち歩いてないと、顔も忘れるっていう・・・数が多いから・・・そういうパフォーマンス的な」
かなり家庭の事情に抵触した話題に、聞く側のほうがいたたまれない気分になる。
しかし健の気遣いをまるで無視して北斗が断言する。
「いや、兄さんのことだ。純粋に弟が好き、らしい」
「北斗さん、それ、フォローしようがないくらい気持ち悪いです、やっぱり皮肉路線にしましょうよ。家族会議を提案します。隼人にメールしましょう、多数決は民主主義の基本ですからね」
制服のポケットから携帯を取りだし、みなとはかなり真顔でそう提案した。
「いや、どっちでもいいよ俺が悪かった。つまり、そういう水守兄弟特有の写真をよこせ、と、生徒会長が水守先輩に迫った、ということですか」
健がまとめると、上条がこっくりと頷いてみせる。
「そうだ。水守先輩がお持ちだったのだから、兄弟全員が必携なんだろう?いつもいつも、みなとくんともっと話す機会を作ってくれ、とりもってくれ、さもなくば写真をくれと切に願っているのに、今日もはぐらかしおって。いい加減実力行使ではいでやろうと、あの格闘シーンだったわけだ」
「だから、持ってない。あれは兄さんだけだ」
北斗が憎々しげに断言するのだが、上条は納得しないらしい。
というよりも、希望的観測で、その可能性を捨てきれないらしい。
「な、そんなこと言わず一枚くらいいいだろう、減るもんではなかろう」
「物理的に減るでしょ」
健が思わず突っ込む。
想像以上に下らない話の展開だった。

場の空気を無視し、上条は切々と訴える。


あれは、忘れもしない4年前―――
水守先輩が見せてくださった、一枚のポートレート。
そこに写し出されし、あどけない天使。
それは可憐かつ清楚で、どこか憂いを帯びた不安そうな瞳が忘れられなく・・・
先輩は、これが俺の弟だと笑って見せてくださった。
あ、ちなみに当時、先輩とはテニス部で一緒だったんだ。
そして写真は全部で3枚あって、一人一人を映していて、そこに北斗もいたがまったく興味がなく、また、非常にみなとくんに似ていても全く違うもうひとりの弟くんもいたが、それも興味がなかった。
あ、みなとくんの双子だと聞いて、軽く嫉妬しておいたがね!
とにかくあのポートレートを一目見た時から、私はもう、心に決めたのだよ・・・
そしてわれら二人が初めてであった瞬間、あの写真の天使だと私にはすぐピンときた!
あの日の感動は、いまだに忘れられない・・・ (以下略)


「・・・出会った時からニュートラルにこうだった理由が、今わかった・・・」
みなとのつぶやきに、健は密かに同情する。
「部外者の俺がこう言ってはなんだけど、そのエピソード、上条先輩も水守兄先輩もダブルで気持ち悪いっす」
「水守兄先輩って、和人さんの新しい名称?」
みなとが確認を取ってくる。
水守先輩では北斗も該当するので、苦心のすえの選択だった。
「とにかく、そんな風に写真を持ち歩いていたのは兄さんだけだし、兄さんは確かにブラコンなのは認める。だが俺も一緒にするな」
おそらくは何千回も宣言したのだろう、北斗の口調からにじみ出る「いい加減にしろ」オーラは相当な重みを伴っている。
「良かったです。僕の知らない写真が出回っていたのかと、若干うす気味悪くて。でも和人さんのお写真のこと言ってるなら納得しました」
用は済んだ、とばかりにみなとは立ちあがる。
「北斗さん、お騒がせいたしました」
きっちりと頭を下げて出口に向かうみなとを、健もあわてて追いかける。
「みなとくん」
みょうな回想モードから戻ってきたのか、少し口調を改めた上条が呼び止める。
声が真剣だった。
みなとは足を止めて振りかえる。
息をのむほど、真面目な表情で上条は告げた。
「君が、私の想いを信じてくれない理由をずっと考えてた。私の気持ちが決して足りないからじゃないね。君側の問題なんだろう」
「・・・・・。」
他人が聞いていてもいいものか、健はその場を去るべきかまよう。
もしかしたら、本当に自分はみなとの言うとおり、空気を読めない人間なのかもしれない。
こういう時、どうしていいのかわからない。
こんな風に、いたたまれないほど真摯な声を、人生でそうそう聞いたことがなかった。
「本当に好きなんだ。どうしたら信じてもらえる。君が私を同じように愛せない、応えられないというなら分かる。でも、想いすら受け取ってもらえないなら、私はどうすればいい」
冗談と本気の境目が見えない人だと思った。
けれど、本気だったのだ、と健は納得する。
冗談のように茶化していても、上条はこんなにも真剣に想いを伝えようとしている。
それはその場にいた誰にも疑いようがなかった。
「先輩。先輩がもし本当に、ふざけたり逃げ道もなく僕にそう言ってくださるなら、いつでもきっぱりとお答えする用意はあります」
みなとは、まっすぐに見つめ返している。
「けれど、本当にそれを聞くおつもりは、あるんですか」
「・・・・。」
思ってもない反撃だったのだろう。
上条の目が、みなとの真摯さに押し返されるように、そらされた。
「・・・そうか。悪かったね」
上条の返事は少し、震えていた。
「まだ、答えを聞く勇気がわかないよ。もう少し、夢を見ていてもいいかな」
確かに、みなとの答えはもう、出ているようなものだ。
だがその決定的な一言を恐れ、上条は無理に笑って見せた。
「・・・本気の想いというのは、怖いものなのだね」
「そうですね」
みなとはゆるく微笑むと、今度こそお辞儀を残して退出する。
健も頭を下げ、それに倣った。
部屋に残された上条は、天井を仰いで椅子に座りなおす。
「・・・・どうでもいいが、人の目の前で弟を口説くな」
北斗の静かな声は、かすかに怒りを含んでいるようだった。
「許してくれよ。バッサリふられたも同然なのに、君にまで責められたら立ち直れないじゃないか」
先ほどまでのテンションはどこへ行ったのか、弱々しい声は懇願の響きに似ている。
「知るか」
「本当に容赦ないなぁ北斗は」
はは、と乾いた笑いを一つ。
「でも本当に分からない。あんなに愛らしい弟を目の前にして、よく平静でいられるな。水守先輩が写真を持ち歩いていらっしゃった気持ちが、君にはわからないのかな」
「・・・兄さんが持っていたのは他の3人分だ。あいつの分だけじゃない」
「そうかな、私の知ってる先輩は、少なくとも私が中一の時には、ご家族のお写真なんてお持ちじゃなかった」

ほら、俺の弟たちだ
いいだろう

そう、自慢げに見せてくれた写真と、嬉しそうな和人の笑顔は、上条の忘れられない記憶の一つだ。

正直、北斗にも和人の考えていることが分からなかった。
お前の写真も持ち歩いてやるから、ジェラシーすんな、と、馬鹿なことを言った兄が、本当に3人分を持ち歩いていると知った時は、純粋に理解できなかった。

確かにあの時、北斗も違和感を感じたのだ。
どうして急に。
それは、みなとのせいなのか。
聞いてもはぐらかして教えてくれなかった。


「本気になると、怖くなる。私はけっきょく大切なところで逃げてしまったね」
自嘲気味のつぶやきに、北斗は返す言葉がなかった。
「笑ってくれてもいいよ。勇気がないくせに、本気だなんて言ってしまった…」
「・・・笑えない」
北斗はかみしめるようにつぶやく。
「俺にはお前を、笑えない」
「・・・そうか」

北斗の声が震えていることに気付いたが、上条はそれ以上追及しようとしなかった。





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