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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

07 そして水守家の事情

「結局、藤原くんのジンクスは発動しなかったねぇ」
「・・・発動せんでええ」
想像以上に重いやりとりを見てしまった健としては、自分の身に降りかからんでくれと切実に願う。


「それより、今週は帰宅するのか?」
幸也の言葉に、みなとはコックリと大きくうなづいた。
消灯時間前の、ささやかな語らいタイムだ。
「第3土曜日は、帰宅しないと破門だって言われてるんだ」
「破門?」
つっこみは健。
「そう。水守教のね。教皇は和人さん」
弟激ラブの長男が主張する、家族、というか兄弟全員で集まらないとあばれちゃうぞデーが、毎月第3土曜に設定されている。
「ユキは帰る?」
「帰らん。遠い」
幸也の実家は、飛行機に乗るレベルでここから遠い。
「そう。藤原くんは?」
健は毎週隣の県の実家に帰省している。
「今週も帰る。金曜の夜から」
「じゃあ皆がそろうのは日曜の夜かな」
3人での生活はそろそろ2ヶ月になろうとしている。
それでもまだまだ、お互いのことは知らない割合が多い。
でも焦らなくてもいいだろう。
時間だけは、たっぷりあるのだ。



「おお、弟たちよ!」
ご満悦で玄関まで迎えに出たのは長男で、それをスルーして靴を脱ぎ出す北斗になおも食い下がる。
「ほら、感動の再会!抱きついて、兄ちゃん!とかお約束だろ」
催促するように両手を広げる彼に対し、次男の北斗は冷ややかだ。
「どいてください」
「おおおぉっと北斗は反抗期か!遅っ!ダセッ!」
ひとしきりはしゃぐ和人を完全無視で北斗は家に上がる。
玄関口に取り残されたみなとは、代わって期待に満ちたまなざしを一人で受けるはめに陥った。
「みなとは、ちゃんと空気読めるよな?」
ほら、と両手を広げられ、満面の笑みで言われると、避けられない。
「ただいま、和人さん。早かったね」
この春から大学に進学し、独り暮らしをしている長男は、みなとや北斗の寮よりも遠方に住んでいる。
それでも、こうして出迎えられるくらい早く実家に帰省していたことが不思議だった。
大学ともなれば、いろいろ多忙なのではないのか。
そう聞きたかったけれども、無言で両手を広げて待ち続ける兄を無視するわけにいかず、とりあえず、とその胸に飛び込むしぐさで返す。
途端、捕獲された小動物のように、ぎゅうぎゅうと締め付けられて逃げられない。
苦しい。
「兄さん、いい加減にしないと、そいつ死にます」
北斗がちらりと振りかえって忠告してくれたおかげで、みなとは窒息死を免れた。
「隼人がなー明日は友達の家にいくとか寂しいこと言ってるんだぜー」
和人のぼやきは心底がっかりしたそれで、みなとは噴出した。
「それで、いつもよりスキンシップが激しかったの。寂しかったんだ」
「そー。北斗は相変わらずつれないしなー。みなとだけだぜ」
ダメ押しのように抱きしめられ、みなとは苦笑いをしながらようやく靴を脱げた。
みずからの境遇を思い返すと、もしかしたら不幸だと思われるかもしれない。
けれど、兄弟にたくさん恵まれたということは、もしかしたら自分で願って叶えられる範囲のこととは別次元で、とてつもなく幸せなのかもしれない。
みなとは心底そう思っていた。
だから、和人の過度な気遣いは、かえって申し訳ないと思うくらいだった。
「ただいま。隼人、明日出かけるんだって?」
リビングでテレビ観賞している双子の弟に声をかける。
「んぁー。兄貴ら帰ってくると、テレビチャンネル権低くなるし。友達ん家で思いっきりゲームしてくるわー」
「友達できたんだ。よかったね」
みなとは心底そう思ったのだが、振りかえった弟の顔は明らかにひきつっていた。
「お前、それ、本気で言ってる?フツー友達くらいナチュラルにできんだろ。お前だって出来ただろ。良かったねとか意味分かんねえ」
「和人さーん、隼人が可愛くないこと言ったー」
みなとが密告すると、長男は嬉々としてとんできた。
「そんな奴は、お兄ちゃんの愛のムチだぞぉぉぉ」
「ぐぁっ痛っ!!兄貴痛いっつの!!」
長男と末っ子の格闘が始まり、みなとは心から笑い転げた。

兄弟が一堂に会する月に一度の週末。

水守家の父は、もともと単身赴任で基本的に家にいない。
居心地が悪いからなのか、それはみなとの推測でしかない。
腹を割ってその辺のことを聞いたことがないのだ。
聞かなくてもいい程度にしか、みなとも思っていない。
そして母も、出張だとかで不在にしている。
こちらも本当のところはみなとに分からない。
両親とも、共働きをしなければならないほどに、この家は困窮していない。
両親不在でも、屋敷には家事全般をこなす家政婦がいるし、兄弟のために腕をふるった夕飯だって用意されている。
何一つ不自由なく、こうして笑い転げられる日々に、何の不服もない。
亡き母を思い出す時もあるが、それは過去を振り返るときだけの話であり、明日のことで頭がいっぱいな自分には関係のない話だ。
薄情なのかもしれないが、正直に言えば関心がない。

・・・と、本当にそう思えれば、楽だと何度も祈った。



ひと月ぶりの我が家に緊張したのか、疲れは一気にあふれ出た。
まどろんで目を開ければ、ソファに横になっている自分と、おなかのあたりにかけられたブランケットが見える。
そして、よく知っている後ろ姿。
ソファは自分が占領しているからか、ソファを背もたれに直に床に座っているのだろう。
ぱら、と乾いた音が時折する。
こちらに背を向けて、本を読んでいるのだろう。
みなとが目を覚ましたことに気づかず、その人物は読書を続けている。
いつも、こんな感じだ。
こちらは息をつめて相手をうかがっているのに、相手はこちらに気づきもしない。
そして、みなとにも分からない。自分の気持ちが。
気づいてほしいのか、気づかれたくないのか。
こうして遠慮なく見つめられるのは、気づかれていないからこそだ。
でも、気づいてくれないからこそ、こちらを見てもくれない。
後ろ姿と横顔だけが、自分に赦された風景で、真正面からその目を見つめることはかなわない。
自分は本当に、どちらを望んでいるのか。
「おい、みなとは本当に寝ちゃったか?」
部屋の入り口から、和人の声がする。
その人物は、返事もしない。
「部屋まで運んだ方がいいかな。風邪ひくだろ」
「後で自分が運びます」
はじめて、その人物が読書を中断して声を発する。
近くで響いた少し低い声に、みなとは全身全霊を傾ける。
息を殺し、寝ているふりを続ける。
「お前のほそ腕で運べるかー?兄ちゃんにまかせろー?」
「・・・兄さん、みなとが起きる」
その一言で、みなとの全身を、何かが打つ。
自分の名前をその人が発しただけで、こんなにも嬉しい。
「そか、ま、駄目っぽかったら俺呼べよ。あっちで隼人にジャーマンスープレックスかけてくる」
「・・・・・・。」
彼は返事をしない。
大学生にもなって、弟相手にプロレス技をかけるのはどうかと思う、けどわざわざ異を唱えない、なぜなら馬鹿らしいから。
そう思っていることが、聞かなくても分かってしまう。
ぱら、と無言で響く項をめくる紙の音が、すべてを物語っている。
「んじゃ、お前もテキトーに寝れ」
和人の声を最後に、部屋に静寂が戻った。
テレビも消されているのだろう。
その人物の呼吸が聞こえるほどの静寂のなかで、みなとはただ息をつめる。
もっとこうしていたいのか。
それとも、起きてこの人と話したいのか。
どっちなのだろう。

起き上がって声をかけようか。

―――ねえ、北斗さん、と。

けれど、こうして黙ってすぐ近くで時を過ごすのもまた、自分が最も望んでいることのような気もする。

北斗ははじめから、兄弟の中で、自分を一番歓迎していない。
それだけは、本当に疑いようもなく気づいていた。
認めたくなかったが、それだけは本当に掛け値なしに真実なのだ。
それがみなとには、何よりも寂しくて悲しかった。


子供のころの刷り込みかもしれない。
一番心細かった時に、一番欲しかったぬくもりをくれた人。
その印象が強くて、いまでもこうして一方的に慕っているだけかもしれない。
本当の意味で屈託なく甘えられる肉親ではないから、コンプレックスの裏返しでこんなにも意識しているのかもしれない。

―――性別とか、常識はこういうとき、味方をしてくれない

ルームメイトに言った言葉は、自分に言い聞かせていたものだ。





―――好きって思っちゃったら、もう、きっと駄目なんだよ




みなとは、眠ったふりを続けているうちに、いつしか本当の眠りに落ちた。





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