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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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08 ジンクスその2「枯れ葉のしおり」 -2-

「あ・・・あの・・・ごめんなさい!!」


「・・・・。」



いきなり、可憐な美少年に『ゴメンナサイ』をされてしまった。

振られたのかこれ。

みょうな構図に、健は天を仰いだ。


頭を下げた吉良の、柔らかそうな髪からほの見える耳は、真っ赤だった。










人に聞かれない場所で話したい、という吉良の希望をかなえるため、自室に連れ込んでしまった。
ルームメイトは談話室に出払っているので、必然的にここは無人だったからだ。

吉良は部屋に入るとき、いくらか躊躇したようだ。
彼が幸也のことをどう想っているのか、考えればその緊張は当然だろう。
ここは健の部屋であると同時に、みなと、幸也の部屋でもあるのだ。
健は中等部の寮室を知らないが、それほど間取りに差はないだろう。
だから吉良の躊躇は、物珍しさからではなさそうだ。
やがて意を決したように部屋へ入ってきた吉良は、入口のドアを閉めるなり、健に向かって頭を下げた。
健には、意味がわからない謝罪だった。
ほぼ初対面に近いのだ、謝られる筋合いはない。
もちろん、告白をしたわけでもないので、振られる道理はない。
だが相手は大まじめに、頭を下げている。


まさか、こんな密室に連れ込まれたから、手ごめにされるとでも思ってるのか!?


そこまで考えが至って、ようやく健は慌てた。
「や、まて、違う!違うからな!俺は別にやましいことなんて考えてないからな!」
「・・・え?」
健の言葉に、下げていた頭を思わず上げてしまった吉良と、そのまま二人しばらく見つめあってしまった。
「違うからな!確かに、最初見た時、かわいいなーとか、ちょっと不思議な感じだなーとか、目はどんな色なんだろうとか、茶色っぽいのかな、とか、確かに考えてたけど、変なこと考えてたわけじゃなくてだな!」
「・・・・・。」
弁解しようとすればするほど、おかしな方向に話が流れた。
確かに、吉良は小柄で華奢な体つきだし、変声期にさしかかったばかりの少しかすれた声が、見た目と相まって可憐な印象を与える。
近くでこうして見てみると、かなり可愛らしい顔をしている。
少女には見えないが、少年特有の可愛らしさだ。
こういう弟がいて、自分を慕ってくれたら、可愛がるだろうな、と、こんな場合なのに健は考えてしまった。
吉良はどことなく、みなとと系統が似ている。
みなとが中学生だったら、きっとこんな雰囲気だったのだろう。
「すみません、あの、僕がまごまごしてるから、話が進まないんですよね・・・」
すみません・・・ともう一度言いながら、吉良の耳はますます赤くなっていく。
それを見ているうちに、健もつられて顔が熱くなっていった。
「や、俺こそ、なんだ、ごめん、あはは」
乾いた愛想笑いでどうにか取り繕う。
「・・・で、ごめんって、何で?俺とどこかで会ってたっけ?」
こちらから水を向けてやると、吉良は3回ほど呼吸をし、やがて恐る恐る話しだした。
「いえ、先輩とお話しするのは今日が初めてです。そうじゃなくて・・・その・・・先輩、噂で聞いたんです、礼拝のこと」
「!!」
おそらく、不名誉極まりないうわさが、中学生のところまで伝わっていたらしい。
軽く死にたくなった健をよそに、吉良はますます真剣に詰め寄ってきた。
「先輩の聖書に、枯れ葉のしおりがあったって・・・本当ですか?」
あれをしおり、と呼称するのか健には判断できないが、枯れ葉が挟まっていたことは事実であり、決して間違ってはいない。
「ああ、うん。はさまってた・・・けど?」
だから何?という気分だった。
そんなことをわざわざ聞きに来たのだろうかこの少年は。
「それって、何節のところに挟まってましたか」
吉良は妙に食い下がる。
「何節って・・・そこまでは知らん。今日の礼拝の項目とは関係ないページだったってことは確かだが」
健の言葉を聞いているのかいないのか、吉良はたたみかける。
「もしかして、・・・ニーバの祈りのページじゃ、なかったですか」
そう尋ねる声は、ほとんど泣きそうだった。
健は勢いに気押されるまま、思い返してみる。
だが、はっきりとは覚えていない。
枯れ葉自体に気を取られていたのは事実で、そのページに何が記載されていたかは確認しなかったのだ。
「ごめん・・・覚えてねえや」
気まずくそう言うと、吉良は唇をかみしめる。

先ほどから、話が進んでいるようで、実は進んでいなかった。
健には、徹頭徹尾、吉良の言いたいことが分からない。
「ごめんなさい」
吉良は再度頭を下げる。
「・・・理由が分からないのに、謝られても。俺は何のことだかわかってないよ」
そう、言い置くと、吉良が視線を泳がせた。

なんなんだ、もう。

健が辛抱強く言葉を待つと、やがて吉良がこう言った。
「すみません。あの枯れ葉、はさんだの・・・多分僕です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
「僕が、・・・僕にあたればいいと思って、入れてたんです。先週の金曜日に」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「なのに、先輩にあの聖書があたってしまって・・・そのせいでもし、先輩が失恋したら、本当に申し訳ないです」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」


話が見えたようで、やっぱり見えなかった。


話を要約すると、こうだろう。

 1.吉良、失恋のジンクスを信じ、聖書に枯れ葉を仕込む。
  →理由は分からないが、自分にその聖書がまわってくることを期待

 2.健がみごとにその聖書を引き当てたがため、枯れ葉が挟まっていた。
  →よって健が失恋するのは、吉良のせいである

 3.噂で健が例の聖書を引き当てたと知った。
  →なので、吉良が健に謝りに来た


「・・・・・・・。」
そこまで整理し、ようやく飲みこめた。
ただ一言、健には言いたいことがあった。
「お前ら、ジンクスなんて本気で信じてるのか?」
失恋だとか、同性に惚れられるとか、人生でそんなに経験する機会のない事柄が、たかが偶然の一致によっておこると、本気で信じているのか。
最初、ジンクスの話を聞いた時は、ヒマなやつらの暇つぶしな噂、程度にしか思っていなかった。
だが、少なくともこの吉良は、真剣にジンクスを疑っていないのだ。
だからわざわざこうして、勇気を振り絞って謝罪に来ているのだろう。
それは、ありがとうと言うべきか、馬鹿か、と怒鳴っていいのか。
健の言葉をどう取ったのか、吉良の目に怯えが走った。
「・・・ごめんなさい」
「いや、謝ってほしいんじゃなくてな。気にするなって言いたいんだが」
「でも、ジンクスは本当なんです。僕も、最初は信じてなかった。でも、」
何かを言いかけ、吉良は不意に口をつぐむ。
責めているつもりはなかったが、少年が委縮するのを見ていると、自分が悪者になった気がして決まりが悪い。
そもそも、健は人を怒ったりすることが、苦手な性分だ。
「あー、とにかく、心配して来てくれたんだな?それは、ありがとうな」
「・・・っ」
吉良の目が、大きく見開かれた。驚いたのだろう。
考えていることが、いちいち顔に出やすい子だ。
「でも、どうして自分に、わざわざ失恋のジンクスをかけようとしたんだ?」
ジンクスの信憑性を信じているということは、それを自分が引き当てれば失恋確定だと、分かっていたはずだ。
普通、失恋なんて、したい奴はいない。
しかも、あんな風に一心に幸也を慕っているのだ、失恋などしたくなかろうに。
「そうでもしなきゃ、思い切れないからです」
吉良の言葉は、意外だった。
「そうしなきゃ、もう、ずっと僕はこんななんだって・・・相手にも迷惑をおかけするし・・・なのに今度は藤原先輩まで巻き込んで・・・僕、本当に最低で・・・っ」
泣きそうだ。
「あぁ、だから、気にスンナって!俺は失恋なんかしねぇよ!彼女いるし!ちゃんと付き合ってるし、もう長いし、先週だってデートしたし!な!」
焦って、言わなくてもいい情報まで流していることに、健は気付いていない。
「だから、お前もそんな気にするなって!あと、失恋しようなんて考えるなよ、頑張ればいいじゃないか」
一応、健は知らないことになっているのだ、吉良の想い人を。
その一点だけはちゃんと忘れないよう、言葉を選び選び励ましてみる。
「失恋なんて、いいもんじゃないぞ。そんな風に思ったら、お前が可哀そうだろ?人を好きになったことって、いいことなんだぞきっと、うん」
必死に励ますと、吉良の表情が少しだけ和らいできた。
後もうひと押しだ。
「相手が好きなんだろ、じゃあ頑張れよ。もし失恋したとしても、それって自分の努力とか気持ちに正々堂々勝負した結果ならまだしも、ジンクスなんかのせいで駄目になったら悔しくねえか?時間の無駄にしかなんねえよ。やってみろよ。行けるって!お前、かわいいし、素直でいい子だし、大丈夫だって!」
何が大丈夫なのかわからないが、必死に言葉を探すうちに色々と結論が迷子になってしまった。
けれど、健の必死な気持ちは伝わったのか、泣きそうだった吉良の表情は、少しだけ、ほんの少しだけ優しい微笑めいたものが浮かんでいた。
目にはうっすらと涙が湧いているのが、至近距離なので見えてしまったが、笑顔を作ろうとしているのは伝わる。
「・・・ありがとう、ございます。すみません、ご迷惑おかけしたのに、逆に優しくしていただいて・・・僕って本当、駄目ですね」
相手が泣かないと分かると、健もほっとする。
「や、いいって。とにかく気にするなよ。な?悩みがあったらいくらでも相談に乗るから」
「・・・藤原先輩って、本当に優しいんですね」
ついに、吉良がにっこりと笑う。
目を細めた瞬間、その目から涙がこぼれてしまったが、顔はやさしい微笑をたたえていた。
「・・・聖書があたったの、先輩で良かった」
「そうか。いや、それは微妙だけどな」
健のつっこみに、ついに吉良は声を立てて笑った。
笑顔を見たのは初めてだが、本当に明るく笑う少年だ。
もっと笑っていてほしいと、とっさに思う。
「・・・僕も、もうちょっと頑張ってみます。ときどき、相談に乗っていただいていいですか?」
「おう!いつでもいいぜ」
「よかった」
そう言って涙をぬぐい、明るい声で吉良は笑う。
笑顔が本当に似合う少年だ。
「先輩がもし失恋したら、僕が慰めて差し上げますからね」
そんな軽口を叩けるくらいに、打ち解けてきたのだろう、それが健には訳もなく嬉しい。
「そんなことにならんよう、俺も頑張るぜ」

おどけた口調で告げると、吉良はふと、微笑でこんなことを言った。

「・・・先輩の彼女さんがうらやましい。きっと、世界一幸せさんだと思いますよ」



それじゃあ、と、頭を下げ、足早に去る吉良を、反射的に呼び止めようとし、思いとどまった。



あれ。


なんか。



なんだろう、この気持ち。




健は反芻する。

なんだろう。





これって、覚えがある感情だ。






・・・・・・・まさか。




健は開いたままのドアをぼんやり見つめながら、耳に残る吉良の声をいつまでも追いかけていた。




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