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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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09 ジンクス番外 *ブルーレター*

目が離せない。


それはもうすでに、恋の始まりなのだ。







ジンクスの一つ「ブルーレター」。

青いカードに書かれた命令は絶対で、無視すれば不幸になる。




その青いカードを見たことがあるものは、学園にそうそういない。
だからそれらしきものを目にしたとて、本物か偽物か、きっとわからない。
けれど、すべての生徒がその存在を知る限り、信じるかぎり、存在する。
それはまるで、サンタクロースのように。
実物がいるか否かが問題ではない。
そうささやかれる存在が、あるかないかだ。


みなとの机にそれが放り込まれたのはそのときで2通目だ。
1通目は無視した。
気持ちが悪い、というか、バカバカしい。捨てた。
けれど2回目に届いたその淡い青のカードは、妙に古びていて、角が手あかか何かで黒ずんで削れていて、妙に無視できなかった。

結果的に、それは「初代」から引き継がれてきた本物のカードだったらしく、命令が何度も消された跡の残る、汚らしい1枚の紙だった。
無視しようと思えばできた。
けれど行ってみた。ヒマだったから。
書かれた場所へ、放課後赴いてみる。



そこで、一人の男と出会った。



彼は、呼びつけておいて、みなとが実際に現れるとひどく驚いていた。
その様子を身勝手だと思いつつ、用件を聞いてみる。
カードには、ただここへ来てほしいとだけあったからだ。
おそらく年上であろうその人物は、話せば至極ささやかな要望で、みなとに「絵のモデルになってほしい」と願ってきた。
断る理由はいくらでもある。
けれど、結局それを受け容れた。
みなとも、興味があったのだ。
たくさんの生徒の中、まったく接点のない自分を、たった一人選んだ理由が知りたい。
なぜ、自分だったのか。

絵のモデルなど初めてで、どうポーズをとったらいいのかわからない。
脱げと言われたら抵抗しただろうけれど、男はそんなことを望まなかったし、疲れたらいくらでも姿勢を崩していいと言われて、却って面食らった。
なんだろう。
どうしてだろう。

聞いても応えず、男は黙々と絵筆を動かした。

男とはほとんど会話などしなかった。
焦がれるような目、むさぼるような視線、それを自分にひたと充てながら、ひたすらクロッキーで線を描きなぐる姿は、先輩ということを超えて、大人に思えた。


何度も何度も呼び出された放課後、ようやく絵の完成を迎える。

はじめて見せてもらった絵は、みなとの知らないみなとが描かれていた。


目が、不思議だった。
自分では見たことがない。どう意識してもこんなまなざしにはならないだろう。
力がこもっていないけれど、力が宿っている。
不思議な目だった。


男の目に映る自分が、初めて見る自分が、みょうに鮮烈だった。
「これが、ぼく?」
かすれた声で問うと、男は不意に微笑んだ。
一度も見たことがなかった笑み。
名前も、好きなことも嫌いなものも知らない、なんの知識もない相手。
ここにきて、ようやくその笑顔を見た。そのくらい希薄な関係。
ブルーのカードがもたらした関係は、みなとのデッサン3枚に変換された。

ところが。
春は疾く過ぎ、ある時を境にふつりとブルーレターが途切れた。
突然のことだった。
つぎの約束をしたわけでもない、ただその場所を指定しただけのメッセージは、確かにいつ終わってもいい程度の他愛ないつながりだ。
変な話だが、途絶えてから初めてそのジンクスの真相が気になった。
みなとがブルーレターについて知っていることは少ない。

一つ、その淡い青のカードに書かれたことは絶対。そむくと不幸になる。
二つ、書かれた命令をかなえたものが、次の所有者になり、誰かに何かを命じる権利を得る。

みなとには、二つ目が起きなかった。

あれ、これって損したかもなぁと思ったこともあったが、結果的に大した要求をされたわけではないのだから、このまま忘れても大したことない。

そう結論付けたころ、季節は秋に差しかかっていた。
そして始まりや終わりと同じような気軽さで、再び机の中にあの色を見つけた。
少し角がくたびれて、紙の表面がけば立っている。
あれだ、と記憶がよみがえる。
あれだ。あれだよね。
でもどうしていまさら。

不思議に思ってしまったが最後、またこなれた気軽さで約束の場所を訪れた。
呼び出した主は先に来ており、久しぶりですね、と声をかけようとして、
動きが止まった。

目が。
別人のようだった。

男は何も言わなかった。
みなとも何も言えなかった。
男の目の前には引き裂かれた白いキャンバスと、それを引き裂いたであろう銀のナイフ・・・それは美術部の人が、油絵でよく使っている道具だ。みなとは油絵を描いたことがないから名称は知らない。
布製のキャンバスは、よほど力を籠めないと破けないだろう。
穏やかではないことくらい、聞かなくたって目から入るそれらの情報だけで十分伝わった。
男は何も話さない。
逃げ出そうと思えば逃げ出せた。
どうしてそうしなかったのか、みなとにも説明できなかった。
習慣のように、受け取ったブルーレターをつっかえしに来ただけ。
そう、これを渡しに来ただけだ。

思いだしたそれをポケットからたぐりよせ、一歩、二歩と男に近寄る。
なぜか相手は、おびえたような表情を走らせる。

何があったかなんてわからない。
相手が何を考えているかわからない。

考えてもしょうがないことは追求しないのが、みなとのポリシーなのだ。


だから自然に相手に近づいて、ブルーレターを差し出して、何事もないように、目の前の追い詰められた獣に気づかないふりして、にこっと笑んだ。

「久しぶりですね」

そう、声をかけた。
それだけで、目の前の獣は陥落した。
張りつめて張りつめて、切れることすら忘れたように張りつめた何かを、決定的な何かを、みなとが絶ってしまった瞬間だった。

獣はものも言わずにみなとを抱きしめた。
骨がきしむのではと思うくらい力を込められた両腕は、みなとを戒めているよりも、男が必死にあがいている証拠だったのだと、みなとはのちに回顧する。

そうして、男は声を絞りだした。
「そうか、俺はもう、終わってたんだな、最初から」
彼のいう最初とはいつのことか。どの時点か。
みなとの知らない彼の日常の話なのか。
それとも、みなとと初めて会ったときのことか。
それを最後まで、知らなかった。
知ろうともしなかった。
それはみなとのいう「考えてもしょうがないこと」にカテゴライズされた、ささいなことだったからだ。

抱きしめた腕を、その時と同じ速度で突き放し、みなとを見下ろす目。
デッサンの時に見た仄暗いまなざしよりも、はるかに荒んだ飢えたまなざしを、みなとは他人事のように見上げた。
「お前の目に、俺は映らないんだな」

そう言われたときに、ようやくみなとの中で、何かのピースがかちりとはまった。
そうか、そういうことか。
彼が突然呼び出さなくなった理由も、言葉少なに、でも目に万感の熱をこめていた理由も、再会して思い知らされた彼が今、何を自嘲しているのか。


―――あ、僕とこの人、おんなじだ。



体をつないだのに、理由なんかない。
強いて言うなら、それ。おんなじだと思ったから。
でも、そんな言葉は、この人には届かないんだろうな。
どういうことか、説明してもらえるかって。
いいなぁ、この人は。
説明さえしてくれれば、きっと自分はこの世のすべてが理解できるって思ってるんだね。
素敵だね。

嫌味ではなくそう思った。

話している間に、いつものように、焦るでもなく身を清め、衣服を整え、拝借していた制服の上着を改めてみる。
卑猥な飛沫は、付着していない。よかった。

「はい、先輩」

上条にそれを差しだすと、絶望が目でみてとれる表情が返ってきた。
かわいそうだな、と他人事で思う。
特に意味はなかったけれど、なんとかなぐさめたくて・・・『それ』を渡した。
他意はなかった。
試すつもりなんて、みなとには微塵もなかった。


だが、いま、その話を聞いて、『それ』を渡された彼が、何を思うかなんて・・・みなとにとっては「考えてもしょがもない」分類だったので。


「もしよろしかったら、僕の代わりにこれを引き継いでください」


ブルーレターは、上条の手に渡った。


のちに上条は、何度もこの時の自分を呪うことになる。

なぜ、呆然と受け取ってしまったのか。



気が遠くなるほどの絶望と葛藤が、そのとき、始まったのだ。















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