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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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01 大好きです

「大好きです!!」

力いっぱい、光輝(ミツキ)は宣言した。

大好きな人に大好きだと言える幸せを、全身で表現したくて、でも表現するには体は小さくて、仕方ないからその分を笑顔に上乗せする。





「・・・。」

対する相手は、言葉はなくとも一目でわかる感情を、表情に上乗せした。

何言ってんだこいつ。

顔はそう言っている。口にしなくてもわかる。
それでもうれしい。好きな人がいてくれて、自分の言葉を聞いている。
目の前にいる。
今日も大好きだと言わせてくれた。

もはやこの校内、朝の風物詩である。
光輝にとっては、おはようと言うのと同じだった。
相手にとっても、おはようと言われるのと同じくらい、つまり、聞き飽きられている言葉だ。
「またやってるよ」
廊下で行きあった生徒たちが忍び笑いする。
その言葉を合図に、くるりと背を向けられた。
さすがに光輝も追いかけない。
もうすぐ予鈴が鳴る。
学年のちがうこのフロアから、わが1年生フロアまで、階段を4ブロック分またがなければならないのだ。

「またやってたのかよお前」
予鈴ギリギリで教室に滑り込んできた光輝を、正志(マサシ)が小突いた。
「うん!今日もいい一日になりそうだ」
「・・・そりゃよかったな」
他に感想がない。
光輝が毎朝のように先輩に告白するのは、この学校の名物と化している。
かれこれ2か月、毎日がこの調子だ。
「先輩も、よく切れないよな」
「なんで?」
「なんでってお前・・・」
答えるより早く、予鈴が滑り込んだ。
正志はこう続ける予定だった。

毎朝、オトコに告られて。

当たり前のように告げられるラブコールを、男の身でどう思うのか。
同性として、同情してしまう。
「おい福原、また朝のルーチンこなしてきたんか」
後ろの席のクラスメイトにも小突かれたところで、担任が入ってきた。
がらり、と教室の引き戸を開けた瞬間、ぼふっと黒板消しが重力に従順になる。
開けたら落ちる、という、昭和から受け継がれし扉のトラップだ。
「言っとくけど、廊下側から見えてっから。お前らはもうちょいモノゴトを俯瞰しろ」
出席簿の黒い表紙を、バン、と右手でパンチし、担任のヤマダは、1-Aに所属する生徒42人を睥睨した。
カツッと踏み込むピンヒールは真っ黒で、男子高生には目の毒なほどタイトなスカートが似合っているが、婚期という言葉がデスワードな年齢であるらしい。
実際に彼女にそれを投げつける愚を犯した勇者は、少なくともこのクラスの中にはいない。
何も男子校の教師だからといって、口調までこちらに寄せずともいいものを、顔はそこそこ美人の類なのに、生徒たちから絶大に人気が、ない。
この校内で唯一のオンナがこれであるから、彼らの青春は暗かった。
ただ一人を除いて。
「福原ぁ」
ヤマダの点呼に、はいっと小気味よく返事するその顔は、にっこにこだ。
「よし、全員いんな」
一目でみりゃわかるのに、いちいち頭から点呼するのはなんの儀式だ。
「今日も一日問題を起こさぬよーに。あと日直、黒板消しの始末なー」
えええまじかよ俺じゃねーのに!と日直から悲鳴が上がった。



きど、たからさん。
福原光輝です。
1年です。
先輩が好きです。
ずっとずっと先輩に会えるのを楽しみにしていました。
だから、夢みたいです!


さかのぼること2か月、時は入学式後、場所はレクレーションだかオリエンテーションだか知らないが、学校が用意した交流会で、光輝は全学年入り混じっている人波を、ただまっすぐ、木戸高良に向かっていった。
はやりの中高一貫校ではなく、ただ3学年しか存在しないこの学校で、新入生が、入学式その日に、『先輩』をずっと前から知っている、ということは首をひねる事態だ。
だがそれ以上に、前出の自己紹介がふるっていた。


好きですってなんだーーー!!


聞いていた周囲、全員が内心で突っ込んだ。
だがここで、アホみたいにはやし立てたりはしない。
いちおう県内屈指の進学校、全員、頭の良さも落ち着きも上級なものだけが集っている。
みな、ひたすら固唾をのんで見守るしか選択肢がない。

「・・・はぁ?」
告白をされた本人は、ずいぶん間をおいてからそうこぼすのが精いっぱいで、固まっている。
構わずに光輝はにこにこと繰り返す。
「好きです!」
聞き違いではないらしい。
ようやく周囲に注目されていることに気づき、深呼吸3回を経て、確認作業に入る。
「ええと、お前、もしかしてどっかであったか?中学が一緒だったとか」
「いいえ」
「じゃあ、塾とか、小学校とかか」
「まったく」
「じゃあ、なんでお前は俺を知ってるんだ」
木戸は当然の質問をした・・・はずだが、それを聞いた光輝が、思いっきり横面を張り倒されたような表情をした。
ただただ、思いもよらぬことにびっくりした、という顔。
傷ついた色は見えなかったことが唯一の救いと言えば救いだが、目の前の見知らぬ少年に、初対面で好きだと言われた事態に変わりはない。
「覚えてないんですか?」
覚えていないから聞いているのに、そんなこと、考えもしなかったと言わんばかりの反応だ。
「そうですか・・・」
木戸の沈黙を肯定と受け取るくらいには、相手も理性があるらしい。
光輝のつぶやきに一瞬さみしい色がまじり、次いで一呼吸が置かれた。
さっと顔を上げた。
その顔は、なぜか笑み。

「でもいいです、好きです、木戸高良さん!」

それから今日まで2か月、光輝のうれしい毎日が始まった。
学校に通えば大好きな人に会える。
大好きな人に、大好きだと言える毎日。
幸せすぎて、笑顔が止まらなかった。
それ以外の細かいことなんて、どうでもいいのだ。








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