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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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02 会えてうれしいです

木戸とて、答え合わせを望んでいた。

 ――まず、いつ、自分たちは出会ったのか。

福原光輝という名に憶えがなく、100歩ゆずって、親の都合で苗字が変わったとしても、下の光輝という名に覚えはない。
さらに1000歩ゆずって、名前すら家庭裁判所経由で変わったとしたら、あんなに自信満々に名乗る意味も分からないし、覚えてないんですか、という相手の反応も不可解だ。

秀才が集うこの学校のおかしいところは、どちらかと言うと理屈を追求することに重きを置いて、本質をないがしろにしすぎるところ。

要は、見知らぬ相手が自分を知っている謎を解明したいということが先走り、男が男に恋ごころを告白したことは、この際、脇に置かれていた。




毎朝、教室の前で待ち構えている茶色の塊を、木戸は7回目くらいから受け流すことにした。
光輝の髪は柔らかいのか、光にすけると明るい色を発している。
一応進学校、規則は厳しく、染めたり脱色したりはご法度で、そもそもそういうことがしたい奴はこの学校をわざわざ受験しない。
だから、光輝の茶の髪は、ちょっと目を引く珍しさだ。
まだ成長期に差しかかって間もないのか、背丈はそれほど高くないし、骨格も恵まれているとは言えない。
変声期は越えたのだろうが、それでも高めで澄んだ声だ。
でもどう見たって少年で、ドラマや漫画にありがちな「女の子と見まごうような」容姿ではない。
見た目は完全に男のそれであり、しいて言うなら元気がよさそうな少年、という表現が一番近い。
高校生と言っても、この春直前までは中学生だったのだから、その中途半端な幼さが微笑ましいと言えば微笑ましい。

入学式に告白をされ、一方的に大好きですと連呼されたが、彼はそれ以上近寄ってこなかった。
その瞬間は周囲も自分もびっくりしたが、なんだかんだと行事のある日はせわしない。
他にやることもあったので(上級生は1年生を歓待する側なので、雑用がそれこそ、たんとあった
)、そちらに気を取られているうちに忘れかけた。


変な新入生がいたな、誰だっけ、程度。


入学式の翌日は、なんの音沙汰もなかったので余計忘れた。
入学式は木曜、何ごともなかった金曜、休みの土・日をはさんで、自身も新しいクラスメイトに早くなじもうと思いながら登校した木戸は、教室前に茶色の塊をみつける。
目が合った瞬間は、何も思い出さなかったが、自分をみいだしたときの相手の表情で思い出した。
ぱぁぁぁぁっと笑顔が広がる過程を、スローモーションのように見守る。
何がそんなにうれしいのか、こちらがひるむ強さで、少年は笑んだ。
「きど、たからさん!」
自分の名前をフルで呼ばれ、まるで聞きなれない異国の言葉のようだと思う。
そんな風に呼ばれることは、日常で、めったにない。
苗字と名前、両方で一人の人間を指す。
ひとつでも欠けたら、その人ではない。
だから、ひとかけらもこぼさず、大切な水を両手ですくうように、名前を呼ぶ。
「あの、福原光輝です」
自分のことを覚えていないのなら、名前から憶えてもらおうという作戦なのか、少年は再度名乗った。
「好きです」
その一言で、ようやくフリーズしていた頭に血がめぐる。
「大好きです!」
言だけ言うと、くるりと華麗にターンし、階段の境目に消えていく。
確かに、3年生のフロアは4階、1年生は2階なので仕方ない。
仕方ない、のか?

次の日も、茶色の塊はそわそわと教室の入り口で己を待っていた。
その次の日も。
告白は一方的で、終わるときも一方的。
声をかけようとしたこともあったが、その前に階段へ去って行ってしまう。
7回目くらいから、放っておくことにした。
別に、朝の挨拶だと思えばいい。
好きだのなんだの言っているけれど、恋人になってくださいと言われるわけでもないし、そのつもりもない。現在木戸に彼女はいないが、だからといって男を彼女がわりにする気はない。
相手の真意もわからない。
どこで知り合ったのかすら。
周囲も奇異の目で見たのは初めだけ、何度も繰り返せばそれはいつものことになり、騒ぐことでもなくなる。
周囲がからかってくるわけでもないので、実害もない。
すっきりしないながらも、相手の真意がわからない以上、木戸にできることは何もないのだ。
ただ、毎朝茶色の塊が自分を待っていて、大好きです、と、嬉しそうに笑っている。
「校門で待ってないだけ、カシコイかもな」
朝の一連の騒ぎを見ていたクラスメイトが、こちらを見もしないでつぶやいたので、え、と、椅子を引く手が止まる。
「校門で待ち伏せすると全校生徒が捜索対象だけど、教室の入り口ならこのクラスの奴らだけを探せばいいだけだ。効率的だ」
「ああ、そういう・・・」
少ない労力で、確実にお目当てのひとを見つける方法として、最適かもしれない。
だが。
「そもそも、毎日告白しに来ること自体が、カシコクないがな」
「ちがいない」
木戸の感想に、クラスメイトはすんなり同意する。
わけのわからん事、わざわざ、しなければいいのに。その程度の感想だ。
3年生とて10代の少年なのだが、2学年の差は大きく、自分よりずっと幼い1年生に対し、言葉の通じない駄々っ子をぼんやりと観察する心境も混じる。

本当にどういうつもりなんだろう。

迷惑と言えば迷惑だが、怒るほどのことでもなく、むしろあんなに明るく好意を告げられて、それをとがめるのも何か違う気がする。

そうこう悩んでいるうちに1か月、2か月と時間の針は進む。
最近は反応するのもおっくうで、こちらの「君は誰なんだろう、なんで俺が好きなんだろう」という疑問すらも風化したのに、少年は明るく笑う。

 ――好きです。大好きです。きどたからさん。

その笑顔は、初めて会ったときから少しも褪せなかった。

いい加減、そろそろ、この無意味に見えるルーチンを終わらせてもいいんじゃないか。
暦が6月になった時、木戸は決意する。
光輝という茶色の塊は、朝しか寄ってこない。
別に昼休みや放課後に付きまとうわけでもないし、休日に見かけることもない。
好きだと言うだけで、笑っているだけで、こちらは消化不良だ。


一度、ちゃんと、話してみよう。


明るく笑い、大好きだと繰り返す彼と、彼についての話を聞いてみよう。









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