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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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03 何から、話しましょうか

「きどたからさん、あの」

「福原」

相手の先手を打ち、いつもの告白にながれそうな気配をぶった切って、提案した。
それは6月の真ん中、水曜日の朝。

名前を呼ばれた茶色い塊は、大きく4回瞬きをした。
瞬きの回数が増すたび、ほほに朱がのぼる。




「放課後、時間はあるか」

木戸の言葉を咀嚼するまでに、数秒の時間を要したらしい。
分単位でなくてよかった。
それくらい、呼吸とともに何かをかみしめる気配がした。
嬉しさ、恥ずかしさ、でもやっぱり嬉しさ、それの色が強くなる。
「よかったら、少し話―――」
「呼んでくれた!」
木戸の言葉が、途中でぶった切られる。
茶色の塊が叫んだ。
「きどたからさんが、僕のこと・・・!」
そこで続くのだろう、”呼んでくれた”という言葉に。
茶色い塊は、ぐっと両手をにぎりしめ、ばたばたっとその場で足踏みをする。
嬉しくてじっとしてられなくて、我慢するための救済措置。
そんな風にはしゃぐ相手に、木戸は若干・・・引いた。

「ええとな、要点そこじゃなくてな、とにかく放課後・・・」
「あいてます!!というか、あかせます!あれ、日本語あってますか!」
「・・・知らねえけど」
想像以上に、はしゃがれている。
教室扉の前で、いきかうクラスメイトがもの言いたげにこちらをチラ見していく。
「あー・・・1年は今日、何時限目まであるんだ?」
「今日は5限です」
「じゃあ、終わったら、図書室に」
「はい!」

出会って2か月。
初めて約束を交わした。


会ったら、何を話そうか。
まず、どこで会ったかを確認しよう。
単に自分が忘れているのか、向こうから一方的に知られているのか。
なぜ、毎朝、告白まがいなことをしているのか。
これから、どうするつもりなのか。
そして一番聞きたいのは。

お前は一体、どういう人間なんだ?

茶色いだけの塊では、ないはずだから。
その辺について、興味がわいた。
本人の口から、聞いてみたかった。
何を見て、何を思って、日々をすごしているのかを。






・・・・で、寝てたわけだ。


放課後、とりあえず図書室にいくと、他の生徒がチラチラ含み笑いで通り過ぎるテーブル席の端っこに、今朝見たばかりの茶色い塊があった。
すぅ、すぅ、と、かすかな寝息とともに上下する薄い背中が、あどけなくて可愛い・・・と思いいたり、ヤベ、なに考えてるんだ、と自分に突っ込む。
一人っ子の自分にとって、弟がいたらこんなかんじだろうか、と思わせる無邪気な笑顔や寝顔が、ありもしないはずの母性本能をくすぐる。
男の身に、母性というものがあると仮定した場合の話だが。
毎日当たり前のように好きだ好きだと言われて、洗脳されてしまったのか。
1年の身では、まだ知らず知らずに緊張して、精神的に疲れていたりするのだろう。
3年生にもなると、そういう新鮮さが欠けてしまう。
素っ頓狂な面ばかり見てきたから、こういう年相応な姿は逆にほっとする。

相手を起こさぬように、向かいの席の椅子をそっと引く。
ちょうど、課題図書の感想文という、どうしようもない宿題が出ていた。
大学入試の小論文の練習だ、と現国の担当教師は言い放っていたが、昨今、文系だってセンター試験だけでパスしてしまうのに、こうやって原稿用紙のマスを埋めるのに意味はあるのか。

そう思いつつも、起承転結、三段論法・・・どの型にのっとって書き上げるべきか、木戸はシャーペンの芯をけずる。

かり、かり、と静かに紙をたたく音と、すやすやした寝息だけが図書室に響いた。


どのくらいそうしていただろうか。

ふと、窓を見れば、ほのかにオレンジが空を覆っている。
腕時計に目をやると、なんだかんだと時間が経過していた。
そろそろ、最終下校時間になる。
起こした方がいいのだろうかと目をやると、茶色い髪が夕日をあつめ、更に明るく輝いている。
宿題の提出期限はまだ先だ、この辺で今日はやめておこう。
原稿用紙を2つ折りにしながらため息をついた瞬間、
「えっ!!」
目の前で、茶色い塊がはねた。
起きたようだ。
急な動きにこちらも固まっていると、相手も木戸をしばし見つめた。

お互い、無言で見つめあうこと15秒(推測)。

「えええええっ!?」
人の数は減ったとはいえ、図書室で大声を出すと注目を集めてしまう。
「しずかに」
しろ、とまでは言えなかった。
首を左右に激しく振り、何かを確認するかのように周囲を確認していた光輝の目が、木戸でひたりと止まる。
「え、いま、なん、」
「6時半。そろそろ下校時間だな」
「・・・・・・っ!」
息をのむ気配、そして、みるみる朱が首元からせりあがって顔全体を染めていくのを、木戸はただ傍観する。
こうして見ているだけで、本当に考えていることが、手に取るようにわかる。
それなのに、肝要なことは、なにひとつわかっていない。

ふと。
漏れた笑みをどう誤解したのか。


向かい合ったテーブルで、茶色い塊は、おろおろわたわたと、擬音のすべてを表現し、やがて縮こまった。

「すみません・・・・」
消え入るような声が、本当におかしくて、木戸はついに声をたてて笑った。

しょんぼりと身を縮めるさまがますますおかしくて、木戸の肩は笑いと共鳴するように震え続ける。


ほんの少し早く終わってしまったホームルーム(担任のヤマダの手腕が光った)のために、早めに到達し、少しの時間もそわそわと落ち着かず、何を話そう、どうやって話そうと考えているうちに、陽だまりの温度が心地よく、つい、深く眠ってしまった光輝は、目が覚めた瞬間、焦がれていたその人の姿を見つけてしまった。

そのとき、自分は息をしていただろうか。
それすら忘れるほどだった。驚いたなんてものじゃない。
意味が分からなかった。自分の身に起きたことのすべてが。

目が覚めたら、目の前に大好きな人がいて、そして笑っている。


「ははは・・・っ」

低い声が、耳にやさしくふるえる。
息が止まるくらい恥ずかしいのと、息が詰まるくらいうれしくて、光輝は伏せた顔があげられなかった。









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