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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

04 たとえば、他愛ない話も

「帰るか」
ひとしきり笑った後で、目じりの涙の粒を指で払いながら、木戸は提案した。
「え」
そんな・・・と顔に書いてある。
せっかく親密に話せるチャンスだったのに、それをまさか自分が寝入ってしまってダメにしてしまうとは、光輝にとって痛恨の極みであった。
けれど、次の言葉に、一発逆転。
心臓がきゅっと音を立てて跳ねた。
「一緒に」






一緒に、帰る。
想像してみてほしい。
大好きな、あこがれの先輩と、一緒に通学路を歩けるなんて。
―――想像したこともなかった。
そんな、幸せを。

「・・・・・っ」

言葉などなくてもわかる。
嬉しい、と、全身が叫んでいた。
その気配を隣で感じながら、木戸は笑いで肺をふくらませる。
ふくく、としばし笑っていると目が合った。
光輝の自宅としばらく方向が一緒だということで、並んで校門を出てから、しばらく経ったときだった。
「なあ、福原」
「はいっ」
良い子の返事だ。
「・・・悪いんだが」
自然と足が止まる。
夕日に伸びる二人の影が向き合う。
「俺は、お前をぜんぜん覚えてないんだ」
「・・・・。」
その言葉に、すこしだけ、ほんのすこしだけ光輝の目が、寂しさを映した。
けれど、それだけだ。
「いいんです。例えばここでオレが無理やりに言って思い出してもらっても、嬉しくないです」
その言葉で、逆に光輝がどれだけ木戸の覚えていない『思い出』を大切にしているかを知る。
どうでもいいから、思い出さなくていいのではない。
大切だからこそ、強制をしない。
その真摯さに、忘却という礼で応えている自分が、ひどく誠意のない人間に思えた。
「・・・悪い」
「悪くないです!」
光輝が即座に否定するので、勢いに飲まれて沈黙する。
見上げてくる目は、もう寂しさを宿していない。
「覚えてなくても、こうやって一緒にいてくださっていることの方が、何倍もすごい」
それは、木戸には分らない感覚だ。
「あの、今度はオレから質問してもいいですか?」
振り仰がれた笑顔に圧倒され、木戸はうなづいた。
「進路とか、きまってますか」
いきなり、ナイーブなところに切り込まれた。
高校3年生のこの時期、進路が決まっていないと少々やばい。
念のため、確認する。
「聞いて、どうするんだ?」
「追いかけます!」
間髪入れず。
「きどたからさんの行くところを、オレも目指します」
・・・念のため、確認する。
「・・・・なんでだ?」
「好きだから」
・・・間髪入れず。
「あなたが好きだから、追いかけます。あなたのいるところに、行きたいです」
「・・・・。」
ある意味、助かった。これで本題が切り出せる。
「ええと、な。お前はいつもそう言ってるが、どういうつもりなんだ?」
なるべく言葉に責める色合いがにじまないよう、注意する。
相手に悪気がないことくらい、わかっている。
けれど、つい詰問口調になってしまうのは、ここ2ヶ月の間積もり積もった疑問と感情の発露が、いま、この時なのだからしょうがない。
「どういうつもりって?」
疑問に疑問がぶつけられる。
相手も至ってまじめだ。
「好き、に、どういうつもりもなにも、ないです」
まっすぐ見上げてくる目が、木戸をとらえる。
「好きです。あなたはオレの特別で、ずっと好きでした。きっとこれからも好きです」
「・・・。」
あまりにも自分に向けられる思いが、まっさらで、混じりけのないものなので、木戸は返答に困った。
彼の言う 好き が、あまりにも無邪気にすぎる。
もしかしたら、恋愛感情の域とは別の好き、かもしれない。
「理解、できませんか?」
木戸の表情をどうとらえたのか、ふと、光輝の目が不安に揺れる。
理解・・・できていない、のだろうか。
木戸には正直、光輝の行動がひとつひとつ不可解なのだ。

初対面で、好きだと言ってくる。
毎朝毎朝、好きだと告げる。
言葉をかけただけで、うれしそうに笑う。
何がうれしいのかと問えば、わからないのですかと逆に問われる感じ。
思考が迷路に入り込む。

「正直、俺にはお前のそういうところが理解できない・・・んだと思う」
話せる感情を、できるだけ誠実に伝えようと言葉を選ぶ。
「どういうつもりで、どういう感情で、好きだと言ってくれるのか、まったくわからない」
ただ、子犬が飼い主にじゃれるような感覚なのか。
それとも、恋人になりたいという感覚なのか。
そしてそれを恐れもなく、てらいもなく告げる勇気を、木戸は知らない。
「馬鹿にしているんでも、からかってるんでもない、ということだけは、ちゃんとわかってる。でも、どう応えたらいいのかわからない」
それが、木戸のできる、精一杯の説明だった。
「・・・。」
夕日は相変わらず二人の影を道にのばし、微動だにしないその影を目の前に突き付ける。
かなりの間、沈黙していたと思う。
時間があまりに緩やかなので、気づくのに時間がかかった。

一歩、光輝が近づき。
少し、つま先立ちをし。
ふわりと両頬に手を添えられ。

気が付いたら、唇と唇が触れていた。


あまりにゆっくりと、自然に重なったものだから、数回呼吸を忘れていたと思う。
ようやく離された、と脳が判断するより先に、もう一度強く押し付つけられるぬくもり。
汗ばむ季節に、それでなくとも人の体温は熱い。
なんどか角度を変えて、ねじ込まれるような唇の柔らかさに、木戸はただおののいた。

自分が今、何をされているのか、ようやくはっきりと把握したころには、そっと唇が離れる。
濡れたように朱をはいた唇を、目で追う。
その唇が、うごく。

「理解できなくてもいいから、あなたを好きなのを、許してください」

声は思いのほか静かで、木戸は何も言えなくなった。



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