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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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05 あなたとならすべてに意味がある

その後、触れあった唇が言葉を紡ぐこともなく、沈黙のあいだ伏せられていた目と、最後に一度だけ目線があった。
なぜか泣きそうな目だった。

ぺこりと頭を下げられる。
そのまま背を向けて駆け出していく背中。
それを見送ることしか、できなかった。







「んー・・・それを他人に話せるのって、大物」
日差しが痛い。刺すようだ。
蒸し暑い。セミがうるさい。
そんな真昼の屋上は、他に人影はない。
座ったコンクリートが、熱せられたフライパンにも似ている。
「いや、お前だからうちあけた。他に言える奴がいなかった」
言いながら、合間にガシガシと焼きそばパンをかじる。
炭水化物に炭水化物、矛盾を咀嚼し、嚥下する。
「それはまぁ、信頼してくれてどうも」
眼鏡を人差し指で押し上げながら、演技がかった笑い方でふふふと振り返られた。
「朝の名物がなくなって、おかしいなとは思っていたんだよ。彼、すんなりあきらめるようなタイプではなさそうだったしね」
朝の名物。
そう北島俊一(しゅんいち)が評したのは、光輝の日参のことだ。
あの口づけ以来、何があったのかと思うほど、彼は姿を見せなくなった。
どんな顔をして会えばいいのか、それなりに悩んだ木戸は、覚悟していた瞬間がついにおとずれないことを翌朝に知った。
次の日も。
その次の日も。
あれだけ当たり前のように現れて、挨拶のように好きですと繰り返した姿は、あの日を境にふつりと消えた。
当たり前の日常に、ある意味戻ったのだ。
ただそれだけのはずなのに、どうしても「なかったこと」に、できない。
悩んだ末、友人に事と次第を詳細に語った。

キスをされてから、福原が現れなくなった、と。

「うん、木戸ってほんと、木戸だよね」
そう総括されるに至り、すべての昼食を取り終えた木戸は、不平を鳴らす。
「意味が、わからん」
北島とは1年のころからの腐れ縁で、よく一緒につるんできた。
きっかけはたぶん、名字がともにキで始まるため、出席番号が近くて、席も近かった、という程度のものだ。
ベタベタとした付き合いではなかったが、悩みを誰かに打ち明けろと言われたら、迷わず選ぶ相手が彼だった。
昼休みの屋上に誘った瞬間、「却下」とすげなく断られたが、その理由は友情の希薄さではなく、純粋に容赦ない夏の日差しを忌避しただけだといいうことは、北島の性格上まちがいない。
だからこそ食い下がった。
人が確実にいない場所で、話がしたいのだ今すぐに。
そう言われた瞬間の北島の奇妙な表情は、腐れ縁史上初めてみるものだったのを、ぼんやりと回顧する。
「いままでけなげに愛を告げていた彼が、言い方を変えればそれだけだった彼が、思いあまってキスをしてきた、と。何がスイッチだったか、わかってる?」
「スイッチ?」
北島の言葉に、オウム返しで尋ねる。
「彼の気持ちがわからない、彼の行動が理解できない、だからどうしていいのかわからない。それが木戸の相談内容だったね」
その確認作業に、脳が一つ一つ言葉を拾う。
たしかに、木戸が相談したかったことはそれに集約される。
「ちなみに、一番最後の相談の答えは、こう。『そんなの自分で考えな』。」
一番最後、つまり、どうしていいのかは自分で考えろ、と。
「・・・了解した。じゃあそれ以外については助言を賜れると嬉しい」
腐れ縁ではあるが、北島の独特のテンポはつかみづらい。
眼鏡を再び押し上げながら、北島はペットボトルのお茶をあおる。
「彼の気持ち、は、シンプル。木戸が好き。それは間違いない」
「・・・・男同士なのに?」
こくん、とうなづかれる。
「男同士なのに」
そうなのか、それは客観的に見てもやはりそうなのか、と思うと、どっと疲れる。
「けれども君は、そんな彼の恋慕がわからないし理解できないと言う。それは彼にとって、ショックだったと思うよ、端的に言えば。あれだけ一生懸命、伝えてたことが、微塵も伝わってなかったと」
「・・・・。」
脳内で、北島の言葉を咀嚼し、想像してみる。
「ショックと言うか、悲しかったんだろうね。君の思考のフィルターをとおして状況を聞いてるわけだから、君の主観もあるだろうけど、僕の見解もまぁ、似たり寄ったりだな。福原は、悲しかったんだと思う」
「・・・。」
悲しませた当事者としては、なんとも返事がしづらい。
「だから思いあまって、キスをした、と。これが僕の助言だよ」
「・・・・・・思いあまってって、ふつう、男が男にするか?」
「変なところにこだわるね?」
木戸の煩悶は、北島にとっても予想外だったようだ。
「例えばだぞ、これが男女だったら、急にキスするなんて、軽い暴力だよな。怒ってもいい話だろう」
「そうだね合意のない女子にやっていいことじゃないね」
「だが、男同士だから、まぁ、驚くは驚くが、怒るほどでもないというか」
言いながら思考を整理する。
するとまた、となりでふふふと声が上がる。
「いや、君、チョロイよね。簡単に1年生に唇をとられるとか。油断しすぎじゃないかな」
「まさかそんなことされるとは思ってなかったから。ノーガードだった。っていうか、そんな警戒する方がどうかしてるだろ、男同士で」
「・・・・そうだねぇ」
蝉の声がじわじわと圧力をかけてくる。
そろそろ室内の涼しさが恋しい。
昼休みも終わりが近い。
ポケットから取り出したスマホで時間を確認し、北島を振り返る。
「ありがとう、そろそろ、もど」

言葉は、唇でからめとられる。


思考が止まる。


セミの鳴き声が、一瞬、止まったように、感じた。


驚くほど至近距離に、友人の顔がある。
いつの間に眼鏡をはずしたのだろう、もしかしたらガラス越しではない彼のまつげは、初めて見るものかもしれない。
閉じられた目に縁どられたまつげが、近すぎて焦点がぶれる。
その目が、そっと開かれる。
目が合うと、唇と一緒に顔が離れていく。

「うん、やっぱり木戸はチョロイ」
第一声が、それだった。
振り払うでも、抵抗するでもなく、境目のわからない熱を受け続けた木戸は、ただ北島を見つめ返す。
硬直した木戸の耳を、三度目のふふふという笑い声がかすめていく。
「福原もかわいそうに」
そう言いながら、北島は外していたガラスの双眼を再び顔に戻しながら、微笑んでいた。
「あれだけ好きだと言っても、ピンときてない鈍感な男に恋をして」

セミの声が、じわじわと耳に戻ってくる。

「木戸の鈍感さは、人を傷つけるね。よりによって、僕に言うか。ほかの男に唇奪われたこと」

北島の言っている意味が、わからない。
目の前にいる友人が、まるでその人に似ているだけの知らない人間にすり替わったような。

世界が、いとも簡単に、覆される。

「ほら、教室に行くぞ」
「待」
待ってくれ。
「ど、ういう」
言葉がつっかえて、出でてこない。
北島はふんわり笑んだ。
「男同士だと、怒るほどでもないんだろ」
先ほどの言葉を反芻される。
「どういう意味かって、聞きたかったのかい?」
眼鏡の奥の目が。
笑ってない。

「言ったよね。そんなの、自分で考えな」

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