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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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06 あなただから、意味がある

たとえるならそれは、立っている地面を、ぐるりとひっくり返されたような感覚だった。

何が起きたのか、分からない。

ひたすら混乱していた。

唇の感触は嘘ではなく、北島が去った後、うわっとセミの声が戻ってきたことで、自分が正気に返ったことを知る。





それから、1週間。

「可愛くないよね」
急に話しかけられたとき、木戸は廊下に貼り出された学年順位を目で追うのに必死で、その気配に気づけなかった。
振り向かなくてもわかる。
きっとそこには、涼やかな眼鏡が、否、顔がある。
夏休み直前の、中間テストが無事に終わった。
「何、学年トップなんか取ってるんだか」
北島の声が、真横に並ぶ。
貼り出された白い紙の一番上に 木戸高良 と印字されているのをもう一度確認してから、ふっと声の主を見る。
同じように壁を見上げている横顔は、微笑んでさえいた。
気まずさなどかけらもないように、当たり前のように隣に立っている。
けれど、木戸は知っている。
立っていた地面は、ひっくり返されたのだ。

混乱から逃げるように、ひたすら勉強に没頭した。
なんてわかりやすい結果か、死ぬ物狂いで参考書を解きまくり、単語をのみこむように覚え、それがこの順位に、ストレートに反映した。

それを北島が悟っているかは謎だが、ぽん、と気軽に肩に置かれた手の感触に、思わずびくりと身がすくんだ。
しまった、と内心あせる。
その感触は、手から伝わったのだろう。
去り際に、またもや ふふふと、空気を揺らすように笑い声を置き土産とされる。
それがほんの少しだけ、悔しかった。

廊下ではまだ数人がたむろし、自分や級友の名前を探していたが、その波から「あっ」とひときわ耳を打つ声が上がった瞬間、心臓が変なタイミングで血を送り出した。
いるはずがない人物。
完全に油断した。
「すごい!すごい!」
なぜここに。
「すごいじゃないですか!きどたからさんが一番だ!」
お前がいる!
木戸の心の声が聞こえたかのように、ぱっと笑顔で振り向かれた。
久しぶりに見る光輝である。
そうだ、こっちも気まずかったんだ・・・と逃げ腰になった瞬間、人の間をすりぬけて突進される。
どすん、と、胸のあたりに茶色い塊がぶつかってきた。
「・・・なぜ抱きつく」
「嬉しくて!!」
質問の答えが微妙にずれているのも、懐かしいような感じがする。
それも変な話だが。
「ねぇっ、お祝いしませんかこれ!」
すっごいすっごい、トップだトップだ!とはしゃがれているのを、若干持て余す。
ただでさえ、秀才の集う学校でみな順位には敏感なのに、ここでそんなにも連呼されると周囲にはばかられる。
「おい、廊下でさわぐな」
「じゃあ廊下じゃないところで騒ぎます」
いまいち言いたいことが伝わっていないことに、すこし疲れる。
「一緒に帰りましょう」
にこっと、自然に、裾を引っ張られた。
「え」
「もうホームルーム終わったんでしょう?帰りましょうよ」
見れば光輝は、すでに学生かばんを手にしていた。
「・・・・。」
北島といい、光輝といい、気にしている自分がおかしいのかと錯覚するくらい、普通の対応だ。
だが、それに救われたのも本当だ。
ーーーこの後の予定もない、仕方ない、付き合うか・・・。
そう自分に言い聞かせつつ教室にかばんを取りに戻る際、ちらりと振り返った先には、満面の笑みの光輝が手を振っていて、さらに疲れを覚えた。


「うちの担任、ヤマダって言うんですけど、きどさんは何か習ったりしました?」
真夏の日差しが、じりじりと二の腕を焦がす。
今日は午前中で終わり、試験休みをまえに生徒たちは浮足立っている。
「1年のときに、現国を」
「へえ!嬉しい」
「・・・何がだ?」
「だって、きどさんと同じ授業をうけてるみたいで。うちもヤマダが現国なんですっ」
時差のあるクラスメイト気分です、と、木戸にはわけのわからない理由ではしゃぎ続ける光輝。
あまりにも何事もなかったかのような姿に、いまさらな疑問がうかぶ。
「そういえば、最近見かけなかったが」
なぜだ、と聞こうとするよりコンマ2秒はやく、振り仰がれた。
言葉が、封じられる。
「怒られました!正志に」
マサシって、だれだ。
木戸の疑問に無邪気に答えがくる。
「クラスメイトなんですけど。毎朝オレがきどさんのところに行くのも、ほどほどにしとけよとか言って。今回も、受験生なのに中間勉強のジャマするなって言われて。でも確かにそうかもって反省したんです」

―――キス事件は、関係なかったのか。


おかしいな、北島の意見では、 ムクワレナイ ショックデ オモイアマッテ コトに及んだのではなかったか。

「もうすぐ夏休みですね」
嬉しそうに光輝が笑う。
「夏期講習とか、行かれるんですか」
「・・・聞いてどうする」
「同じところに通います!」
「・・・だろうから、教えない」
「えー!!」
あまりにも予想通りで素直な反応に、笑いが鼻からもれる。
本当に、元通りだ。
「でも、よかったぁ」
「何が」
「きどさん、ここのところ、お元気なかったですよね」
意外な言葉に、え、と動きが止まった。
「時々見かけたんです。中間試験直前くらいだったかな。本当は走っていきたかったんですけど」
さきほどのマサシとやらの言葉が、ストッパーになっていたのだそうだ。
試験前だ、邪魔してはいけない。そう、自らに言い聞かせて必死に我慢したのだと、光輝は言いつのった。
木戸は心の中で、会ったこともない常識人のマサシ少年に感謝する。
「いや、元気がなかったというか」
どうしても、聞いてみたかった。

「・・・お前は、どうして平気なんだ?」

今度は光輝が え と動きを止める番だった。
「その、男に、男が、キスをするのって、普通のことか?」
「・・・・・・きどさん・・・」
息をのむような気配がし、思わず足を止める。
目がこぼれおちるんじゃないかというくらい見開いて、こちらを見上げている。
「もしかして、嫌、でしたか」
「え、そこ確認するか」
油断しきっていたのか、思うことが口からダダもれした。

・・・今思えば。
それが良くなかった。


夏の暑さが、まともな思考を邪魔したのか。
―――木戸ってほんと、木戸だよね。
あの時の北島の言葉の意味をもっと吟味していればよかった。

なのに。



「ちがう、たぶんお前が見かけたときは、別のヤツにキスされたことで悩んで」
「―――――え。」

びくりと震えた。

あまりの声のトーンに。

さきほどふいに肩に手を置かれたときのように、身に震えが走った。

おそるおそる、光輝の表情を確認する。

うつむき加減のその表情は、いっそ無表情といってもいい。

だから、反応が、読めない。

「いま、なんて、言ったんですか」


―――スイッチ。

北島が言っていたスイッチが、いま、この時に入ったのだと、木戸は頭の片隅で理解した。



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