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rain* ~BL only~

BLオリジナル小説オンリーブログ。 やおいが生き甲斐。BLは浪漫です!!

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12 あの幼い日のお星さま

それは、幼いころの光輝にとって、たった一つの星だった。








光輝には、みき、という姉がいた。
漢字は知らない。
光輝が漢字を覚える前に、両親いわく「お星さまになった」。
それ以降、家族の間で姉の名前は禁忌となり、写真も、存在も、跡形もなく丁寧に取りのぞかれたので、漢字は知らないままだ。
そのくせ全員が『見ない』ことで全身で姉を意識していた。
今ふりかえると、やはりあの頃の家族はみんなおかしかった。
妙な迷路に迷い込んでいて、幼い自分はいつもおどおどしていたように思える。
そもそも光輝の名前は、姉の名前をもじっている。
みき、と、みつき。
そして光輝が生まれた理由も、姉のためだ。
ずいぶん大きくなってから「あの子の移植のために生んだのに」と泣きながら言われた言葉の意味を理解したけれど、幼心にひどいことを言われたという感触だけは、不思議と心のどこかにひっかかって、ころころところがりつづけていまだに解けない。

あの頃の光輝にとって、毎日は暗くて怖くて寒いだけだった。
記憶は暗くて断片的なものの羅列。
毎日、消毒液くさい病院に連れてこられる日々。
ベッドの上にいる、印象のうすい「みきちゃん」。
母は毎日、ベッドの上に取りすがって泣いてばかりいた。


そんなある日、光輝はついにへそを曲げた。

姉ばかりかまう母の気をひきたくて、姉にばかりかまう大人たちをその場に、こっそり病室を抜け出し、やみくもに走って院内の中庭の茂みの影にたどりついた。
かくれんぼ程度の、つもりだった。
このまま隠れていれば、慌てた母が光輝を探して、光輝を見つけてくれる・・・当たり前のようにそう思い描いていたのに、ついに母は現れなかった。
空を見上げながら、子供なりにいろいろなことを考えていたと思う。
やがて泣き疲れて寝入ってしまったのは、どのくらいの時間だっただろうか。
みじろぎしたとき、タオルの感触が一気に現実を教える。
なんだろう、とたぐりよせた手の中にある大きな見知らぬタオルを、光輝は目をこすりながら見る。
そして、同じように視界に入った、少年の後ろ姿。

「だぁれ」
光輝の声に、体育座りをしていた背中が振り返った。
同じくらいか、すこしお兄さんくらいのその少年は、手にした絵本のページをめくる手を止める。
いらえは、なかった。
そのまま本に目をもどされ、自然、光輝の興味はそちらにむいた。
けれどまだ、光輝が文字を覚える前のことで、絵本の表紙の文字すらわからない。
したがって興味は再び少年自身にうつった。
「ねぇ、だぁれ」
「君は?」
質問に、質問で返される。
単純なおさなごは、問いに正面から答えた。
「みつき。ふくはら、みつき、です」
知らない大人に、お名前は?って聞かれるたびに教え込まれた自己紹介の芸。
「きみは?」
「・・・・。」
答えは、ない。
体にかけられたタオルに、黒いマジックで文字が書かれているのに気付いた。
この少年が、かけてくれたのだろうか?
風邪をひかないように、体を温めるように。
ママだって、みきちゃんにしかしなかったことを、見ず知らずのこの子がしてくれたのだろうか?
光輝がどう切り出そうか迷っている間に、少年は絵本をぱたん、と閉じる。
そして無言で立ち去ってしまった。


それが。


光輝がお星さまを見つけた、最初の一日だった。




そして光輝の宝探しの毎日が、はじまる。
タオルに書かれた文字を、廊下ですれ違う看護師さんに一生懸命に示してみせると、ああ、と破願して教えてもらえた病室は205号室。
2階の一番奥の病室で、カーテンで4つに区切られた窓際が、くだんの少年の居場所であり、おそるおそるカーテンをめくってみると、ベッドの上の少年と目が合った。
ふ、と。微笑まれる気配。
びくびくとカーテンを握りしめる光輝に、少年は読んでいた絵本を閉じて笑う。
「また来たの」
「ん」
教えてもらった、マジックのあの文字は、まだ読めない。
けれど教えてもらった。
看護師さんが笑って、読んでくれた。
「きど、たから」
呼び捨てのその言葉に、ベッドの上の少年は柔らかく微笑むだけだ。
「そうだよ」
おいで、と上掛けをめくって迎えられたベッドは、いつもお日様の匂いがした。






「・・・そうか」
もう一度、かみしめるように言うと、答えるようにしがみつく力が強まる。
あの頃も身長差があったけれど、いまもあまりその差は縮まっていないのが不思議な気持ちで、あの頃のようにその頭を撫でてみる。そっと、慰めるように。
「入学式の時、そう言えばよかったじゃないか」
「・・・・。」
だまって首を振る。
光輝の親は、姉が入院しているのを周囲に話すことを嫌がっていた。
きっと、病人やその家族は複雑なものを持っている。
本人がそのことをどうとらえているかわからないのに、衆人の前で「子供のころ長期入院していた」などというデリケートなことを言ってはいけない、無意識にそう思ったのだ。
だから、言えなかった。
生来、単純明快な光輝が、そんな風に配慮するくらい、子供のころの暗い経験は病気に対して過敏にさせた。
嫌な記憶ばかりの中、一つだけ光輝にとって温かかったもの。
一生懸命に覚えた名前。
読めなかった名前。

きど たから。


病室のすみっこで、光輝を迎えてくれた、物静かなお兄さん。
大好きだった。
いつも飛びつくように抱っこをねだった。
思いっきり、甘えた。
おやすみのちゅう、というものをした時は、くすぐったいよと身をよじって、でもはじけるように笑って、光輝のことを深く詮索もせず、ただ受け入れてくれたやさしい人。
光輝のお星さま。


「やっと、会えた」
涙声で言うと、すこし息をのみ、次いで、吸い込んだ息を笑いで吐き出す気配が光輝の頭上でした。





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